第4章 日曜日の夜の過ごし方
明日から仕事だと言うのに頭がすっかり冴えてしまって、私は眠れずにいた。それどころか煉獄さんの綺麗なまつ毛を思い出して、煉獄さんに見惚れて時間を忘れてしまった自分に恥ずかしくなった。おさまれ、私…。
「…中彩、まだ、起きているか。」
「は、はい!起きてます!」
悶々としている最中、煉獄さんに話しかけられて驚き、声が裏返ってしまった。汗が流れる感覚。まだ起きてたのか。どうしよう、変な女だと思われたかな。やっぱりあの時、起きてたのかな。
「すまない。中彩に黙ってことを進めてしまった。」
「え?」
私の思いとは裏腹に煉獄さんは私に小さな声で言った。煉獄さんの方を見て、暗闇で読めない表情を見つめる。
「君の意見を聞くべきだっただろうか。」
「え、えっと…」
私のこと気遣ってくれてるのか…?
「中彩が休み明けの前の日に、鬱々とする原因には遠からず俺のせいでもあるだろう。」
「え、…」
「俺が働き、中彩が家にいれば休み明けの度に鬱々とすることもないだろう。」
「いや、私だって私のために働いているので煉獄さんのためじゃないですし」
「…」
「私が月曜日が嫌いなのは私がその…卑屈というか、煉獄さんが仰るように逃げているから…ですし…」
「…」
自分で言うと本当に滑稽に思うがそうだ。
「だから煉獄さんのせいじゃないんです。気にしなくていいんです。」
「…」
煉獄さんは私の言葉を黙って聞いていた。私が休み明け前、仕事に行きたくないとぐずっていたことで、煉獄さんに心配をかけてしまっていたのかと思うと申し訳なくなる。でも、これは私の問題であって、煉獄さんのせいじゃない。煉獄さんが私のために働く必要はない。
「だから、煉獄さんが働く必要はないんです。」
「…否、言葉を変えよう。俺は、君に笑っていて欲しい。」
「え?」
「時の流れは止めることが出来ない。去るものも、来るものも、どうにもならぬものだ。」
「…」
「中彩が辛く思うことを理解できるとは思わない。だが、君が止まらぬ流れの時間の中で笑っていられるよう、俺は俺のすべきことをする。」
煉獄さんの言葉は一言一言が熱くて、重くて、まっすぐだった。自分が、自分の言葉が、まるでちっぽけな存在に思えてしまうほどに、彼は1歩1歩、大きく深く歩んでいた。