• テキストサイズ

どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第4章 日曜日の夜の過ごし方


「煉獄さん、私、月曜日から逃げません。いや、その、すぐには出来ないかもしれないけど…少しずつ。だから、…」

私は布団の中から手を伸ばし、煉獄さんのパジャマの裾を握った。煉獄さんは動かない。私の言葉を静かに待っているようだ。

「煉獄さんもそんなに頑張ろうとしないでください。煉獄さんは頑張ってます。この慣れない世界に一人で来て、不安だと思うのに私の心配までしないでください。」

ふと煉獄さんの方を見ると、暗闇に慣れた私の瞳が煉獄さんの瞳をとらえた。煉獄さんも私のことを真っ直ぐと見つめている。少し離れたその距離が、なんだかとても近くに感じる。

「よもやよもや、…中彩には敵わないな。君は強い女だ。」

煉獄さんはそう言うと、確かに笑った。眉を少し寄せて、困ったように、それでもなんだか嬉しそうに笑った。私はそんな煉獄さんの笑顔を真っ直ぐみることが出来なくて、「そんなことないです」と小さい声で返して、煉獄さんから離れる。

「煉獄さん、おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

そして今度は本当に静かになった。少ししてから、隣の煉獄さんは眠ったようで、規則的な呼吸の音が聞こえる。力を張っているような、なんだか特徴のある寝息だ。寝る時にまで肩に力が入っているのではないかと心配になる。

お互いが、同じ気持ちの端と端にいて、ゆっくりと歩んで通り過ぎて、またゆっくりと近づいていく。人と人が分かりあったり、近づくことは容易ではない。でも、だからこそその歩みを止めないで進み続けることでしか方法はない。

煉獄さんの思いを少しでもわかってあげられるようになりたい。私の思いを少しでもわかって貰えるように務めたい。その1歩として、私は煉獄さんの背中を押すことにした。煉獄さんが歩み続けられるように、私が歩み続けられるように。

そこまで考えたところで、冴え渡っていた私の頭にゆっくりとベールがかかる。眠りの湖に沈んでいく。温かい。怖くない。息苦しくない。前を向いていける。私には味方がいる。


「君には笑っていて欲しい。」


今まで毎週のように怯えていた月曜日に私は初めて向き合えた気がした。












だが、私はこの夜のことをやはり少し後悔することになる。
/ 113ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp