第17章 小さな火
数十分後、麻衣の前にハンバーグの乗った皿を置く。我ながら料理の腕が日に日に上達しているように思う。俺が腕を組んで頷くと、湯気の立つそれを見た麻衣の瞳が再び揺れた。どうやら喜んでいるようだ。
「ありがとうございます…」
「ああ!」
震える声で言う麻衣に俺は箸を渡し、隣に腰かける。そして軽く頭を叩いたあと、両手を合わせた。
「まずは飯だ!麻衣!」
俺の言葉に麻衣も続いて手を合わせる。
いつも行っている君と俺の日課のひとつ。俺はこの時間が好きだ。自然に微笑みがこぼれる。
「「いただきます!」」
同時に箸を取って、肉を切る。口に運ぶ、味わう。飯をかきこむ。幸福に思う。
「うまい!!!」
隣の麻衣も「おいしいです!」と声を揃える。多少明るくなったその声の方へ目をやると、麻衣は夢中になった様子で飯を食べていた。うむ、食欲があるのは良いことだ。俺は頷きながら箸を動かした。
「元気、出てきました杏寿郎さん。ありがとうございます。」
しばらくの後、麻衣がそう言って微笑んだ。俺は少し顔が熱くなる。やはり君には笑っていて欲しい。麻衣の仕事のことを俺は知らない。俺が麻衣に言ってやれることは限りなく少ない。
「君はよくやっている。」
「え?」
「麻衣は何事にも懸命だ。俺は、それを一番よく分かっているつもりだ。」
麻衣に微笑む。麻衣は俺の方を見て目を丸くしている。俺は飯を食いながら続ける。
「麻衣は、麻衣なりに自分の責務を全うせんとしたのだろう。恐らく、周りの人間もそれをわかっているはずだ。君はそのままで良い。胸を張れ。」
「杏寿郎さん……」
俺がそう言い終わると、麻衣が再び泣き出した。俺は麻衣の背を叩いてやる。本当に、君はすぐに泣く。自分の意見を真っ直ぐに言って譲らない頑固なところもあるのに、自分に自信がないようだ。おかしな女だ。俺はそう思いながら、初めて麻衣の部屋で目を覚まし、麻衣と話した時のことを思い出した。
「麻衣は、麻衣の胸の炎を大切にすればいい」
「私、炎なんかないですよ、ちっちゃい火です。」
「はっはっ!火か!ならばそれで良い。」