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どうか笑って。【鬼滅の刃/煉獄杏寿郎】

第17章 小さな火


麻衣が洗い物をしながら鼻歌を歌っている。流れる水の音と、皿の鳴る高い音が重なって、その心地良さに俺は心が穏やかになるのを感じる。君はこうでなくては。俺は台所に立つ麻衣の背を見た。真っ直ぐと、上に伸びた良い姿勢だ。ふと、水の音が止まる。麻衣が手を拭いている。

「杏寿郎さん、」

洗い物を済ませた麻衣が振り向き近づいてきて、俺の近くで正座をした。家に帰ってきた時と打って変わってとても善い表情をしていた。俺に向き直ると、改まったように頭を下げる。

「杏寿郎さん、ありがとうございました。」

「む?」

「杏寿郎さんが励ましてくれたおかげさまで、元気が出ました」

「はっはっ!そうか!」

「私も、私の胸の小さな火を頑張って燃やしたいと思います。お仕事、頑張ります。」

麻衣が少し恥ずかしそうに言うのに、俺は頷く。君は真っ直ぐな心を持っている。懸命に取り組む、そんな君が俺は好きだ。君が前を向くならば、俺は何度でもその背を押そう。

「もう遅い、早く風呂に入るんだ」

「はい!」

とても眩しい笑顔で頷いて、麻衣は準備するため立ち上がった。足が痺れたようで、寄ろけて転ぶ。俺の方に倒れてくるので、急ぎ受け止めた。相変わらず、正座には慣れんようだ。苦笑し、一度、腕の中で麻衣を抱きしめる。ああ、とても愛しい。

「全く君は危なっかしいところがあるな。」

「す、すみません…///」

腕の中で赤くなる麻衣の頭を撫でると、少しの名残惜しさを感じながら、俺は手を貸してやる。麻衣は礼を言って立ち上がった。

君が倒れた時は、何度だって手を貸そう。君が立ち直れない時には、君の一番近くでその手を取る。もっとも、俺が居なくても、君はきっとその足で立ち上がっていくのだろう。君には、俺を頼って欲しい。俺はそれを願う。君を守るために、俺はいるのだから。

浴室のドアの閉まる音がする。麻衣が風呂に入った。それを背で感じながら、俺は再び読んでいた本に目を落とす。

部屋に残った微かな甘い匂いと、幸福。
俺の胸に静かに燃える炎。
ゆっくりと流れる時間。

それらを感じながら、俺は再び連なる文字に意識を集中させた。浴室からは楽しげな鼻歌が聞こえていた。
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