第14章 感謝の日
「時に、麻衣は俺にこうして触れられることを嫌だとは思わないだろうか。」
杏寿郎さんが私を抱きしめる腕にそっと力を込める。少し屈んで抱きしめてくれる杏寿郎さん。熱が直に伝わる。心臓の音も大きくて、いい匂いがする。炭治郎くんが、杏寿郎さんのことを「正義感の強い匂い」と言っていたのを思い出す。確かに、杏寿郎さんは温かい匂いがする。体格の大きな彼に包まれると、とても安心する。
「嫌じゃ、ないです…」
私の言葉に杏寿郎さんがはっと私の顔を見た。何だかとても晴れ晴れとした表情だ。そんなに不安に思うことだったのかな。ちょっと恥ずかしいけど、嫌だなんて思うはずがない。
「そ、そうか…!」
杏寿郎さんの声に私はこくりと頷いた。
「ただ、結婚は、その、まずはこの呼び方をお互い慣れてから、にしませんか?杏寿郎さん…」
目が合わせられない。私もまだ彼の目を見て名前を呼ぶことが出来ない。恥ずかしい。こんな状態で結婚なんて無理だ。そう思っていると、杏寿郎さんが、尚もなにか言いたそうな表情をしている。私はそんな彼に咳払いをして何とか説得を試みる。
「あのですね、社会人にとってのバレンタインデーホワイトデーというのは、ただの社交辞令なんですよ。」
「社交辞令?」
私の言葉に杏寿郎さんが首を傾げる。さてはさっきの私のホワイトデーの説明聞いてなかったな?ため息をついて私は杏寿郎さんを真っ直ぐに見る。
「私のことが好きとかそういうのではなくて、いつもありがとうという感謝をする日です。」
杏寿郎さんがぽかんとする。そして少ししてから、私の目を真っ直ぐに見て目を見開いた。
「なら、君はこの小包を贈ったどの男よりも、俺を好いているのだな!」
杏寿郎さんがそう言うと逆に私が恥ずかしくなる。何を言い出すんだ。
「あ、当たり前です!///私は、杏寿郎さんの、か、彼女なんですから!」
私がそう言うと杏寿郎さんは私の頭をわしゃわしゃと撫でた。髪の毛がぐしゃぐしゃになる。それでも私はそんな杏寿郎さんに安心して目を細める。
当たり前です。私は杏寿郎さんが世界で1番大好きです。
さすがに恥ずかしいので、言わないでおいた。
「さぁ杏寿郎さん、夜ご飯、夜ご飯にしましょう?」
私がそう言うと杏寿郎さんが明るく微笑む。
「あ、ああ!そうだな!そうしよう!」
私も釣られて微笑んだ。
