第14章 感謝の日
「麻衣、」
夕食後、洗い物を済ませて台所から戻ると、杏寿郎さんが正座をして待っていた。どことなく緊張した面持ちだ。なんとなく周りの空気が張り詰めている。どうしたのだろう。
「はい?」
私は首を傾げながら濡れた手を拭くと、なんとなく釣られて杏寿郎さんの前で正座をする。すると杏寿郎さんがごほんと咳払いをして、私に小さな袋を差し出した。
「…俺からの感謝の気持ち、だ。本当は日曜日に渡そうと思っていたのだが、他の小包よりも先に、俺のものを一番に見てほしい!」
そう言って杏寿郎さんの渡す袋を受け取る。目の前の杏寿郎さんから緊張感が伝わってくる。私の手元を穴が空くくらいに見ている。感謝の気持ち、杏寿郎さんもホワイトデーを買ってくれてたんだ。私はそれだけでとても嬉しかった。杏寿郎さんの緊張が移ったのか、私もつい緊張しながら封を開ける。
「わぁ……!」
そこには一輪の赤い薔薇の飴細工が入っていた。木の板に刺さっていて、このまま飾れるようにもなっている。赤く透明な薔薇がキラキラと光ってとても美しい。私は息を飲む。なんて素敵なのだろう。食べるのなんてもったいない。これは飾ろう。何より、これを私のために選んでくれたということがとても嬉しい。
「杏寿郎さん…ありがとうございます」
私がお礼を言うと、私の反応に杏寿郎さんは少し安心したように微笑んだ。
「君がどのようなものが好きなのか、思えば俺はまだ何も知らなかった。これから、君のことを俺に教えて欲しい。いつも感謝している。麻衣」
私は何度も頷いた。それを見た杏寿郎さんが一息を吐いて立ち上がり、部屋の隅に置いてあった紙袋をおもむろに持ってきて、私の前にドサッと置いた。
「これも麻衣にやろう!!!先日、選びきれずにあわせて買った品だ!受け取ってほしい!」
この間北千住に行った帰り、両手に持ってたお菓子だった。そのあまりの量に私はつい吹き出してしまう。
「こんなに沢山、太っちゃいます…」
私がそう言うと、杏寿郎さんは「気にするな!」と言って腕を組む。
「じゃあ、全部2人で半分こして食べましょうか」
「ああ!」
「杏寿郎さん、私こそ、いつもありがとうございます。」
私も杏寿郎さんに精一杯の感謝を伝える。杏寿郎さんに会えてよかった。そう言うと杏寿郎さんも照れたように微笑むのだった。
