第6章 水族館
「どんなのがいいかなぁ」
と呟きながら、目の前の土産品の棚を物色し始める花里。
もしや?と思い、一応聞いてみる。
「選んでいるのは、錆兎の分か?」
「…ごめんなさい。図々しいですよね?」
いやまさか。
「一緒に選んで貰えると、俺は助かる」
俺がそう言うと、花里の顔がぱっと輝いた。
「頑張りますね!」
にこっと笑い、また土産選びへと戻る花里。
頑張らなくてもいいのだが…
そんな所も健気で可愛らしいと思ってしまう。
「冨岡さん」
「ん?」
「錆兎さんて…男の人ですか?」
「あぁ、錆兎は男だ」
「じゃあこれは…可愛過ぎるかも」
花里が手に持っていたのは、イルカの絵が入ったクッキー缶だった。
確かにデザインが可愛らしいので女子っぽいが、『水族館に行って来ました』が全面に出てるので、これはこれで良いのでは?
と思ったのだが、花里は納得していないみたいなので、俺も他の物を探してみる事にする。
「あ、冨岡さん。これならどうですか?」
そう言って花里が指差したのは、スポーツタオルだった。
イラストではなく、本物のイルカが2頭プリントされていて、全体的に濃い青から薄い青へグラデーションになっている。
こっちの方がかっこいいな。
「これにするか」
「はい!あ、でも私が選んだ物で良かったですか?」
「問題ない。タオルならずっと使える」
「いいチョイスだ」と俺が言うと、「良かったです」と花里は嬉しそうに笑った。
俺は花里が選んでくれた錆兎の分の土産を購入した。
レジから戻ると、花里は今度は母親の分を選んでるようだった。
「お母さんは…やっぱりこれがいいかなぁ」
さっき見たものとは違うが、イルカの柄の良く似たクッキー缶。
「定番でつまらないかな?」なんて花里は苦笑いするが、娘が自分のために選んでくれたのだ。
喜ぶに決まっている。
「いいと思う。可愛らしいイルカだ」
「可愛いですよね!冨岡さんに褒めてもらったからやっぱりコレにします!」
俺の意見を取り入れてもらえるとは。
なんだか少々こそばゆい。