第1章 Episode:01*
逃げ場が、ない。
笑っていない虎杖くんに、じっと顔を覗き込まれる。
ガラスみたいな虎杖くんの瞳には、泣きそうな表情をした情けない私の姿が映っていた。
「……俺は好き、だから」
「………っ」
「…」
ぎゅう、って。
ほんとにそんな音が聞こえる位、そっと、ゆっくりと、抱き締められた。
優しく、名前で呼ぶなんてずるい…怒れない…
薄い皮膚を綺麗に押し上げている鎖骨の感触が、私の心も締め付けていく。
「んー……ふわふわ。クセになりそう……」
「……何それ…ぬいぐるみ、みたいに…」
「あー確かに、でも可愛いからいいじゃん」
「………。」
ふざけて言われてるんだとしても、嫌悪感は不思議と湧いてこなかった。
伏黒くんの言っていた、虎杖くんの得体の知れない恐怖とやらも、今は感じられなくて。
変な人だとは思うけど。
今はまだ知らなくていいと、未だ抱き締められながら、そんなことを思った。
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