第1章 Episode:01*
「あれ、まだ残ってたの」
虎杖くんがやっと戻って来たのは、校舎がオレンジ色に染まり出す頃だった。
教室には誰も居ない。
私と虎杖くん、以外は。
「屋上で寝てたらいつの間にかこんな時間になっちゃててさぁ。も早く帰ら……」
「虎杖…くん」
蚊の泣くような声で呼ぶ私を、虎杖くんはおかしそうに笑った。
「つか、虎杖でいいよ」
「や…それは、無理」
「……そ」
沈んでいく太陽の中で、向かい合って。
呼び掛けておきながら何も言わない私に、虎杖くんがどしたの?と首を傾げる。
桃色の髪が、さらりと揺れた。
だぼだぼのパーカーにブレザー、ズボンだって下がりまくってるのに。
やっぱり、初めて会った時と変わらず、虎杖くんは格好いい。
「?」
「っ!あ、えと、その」
やばい、また見惚れてた。
そんな場合じゃないのに。
ちゃんと、伝えなきゃ。
「あの……あり、がとう……」
「何が?」
「今朝の、こと」
心底不思議そうな顔をしていた虎杖くんだったけど、少し考えた後、あぁと何か閃いたようで。
「別に。むしろ余計なことしちゃったかも」
「いや……でも、やっぱり嬉しかったから…お礼、言っときたくて。あと」
「?」
――――いちごオレ。
「昨日…美味しかった、から」
「―――……。」
「ありがとう」
言って、買っておいたコーヒーを差し出す。
「お昼に渡せなかったから。もう、冷たくないけど」
外れない目と目。
虎杖くんの綺麗な瞳が、少しだけ揺れたような気がした。
*