第5章 群青の飛球 *不死川玄弥*
暫くするとパタパタとドアの前から走り去ってく音が聞こえた。
(完全に嫌われたな、俺。何やってんだ…かっこ悪ぃ……)
「オイ玄弥。もう少しあいつの気持ちも考えてやれよ。あんなに冷たくすることねぇだろォ、何ふてくされてんだァ?」
ドア越しにそう言われると、落ち着きを取り戻しつつあった怒りはまた形を変えてギスギスと大きくなる。
「ふてくされる…?兄貴には分からねぇよ。いつもいつも兄貴と比べられて、不死川の弟としか見てもらえない。俺は俺として認めてもらいたいのにっ…努力しても敵わねぇ……そんな俺の気持ちが分かるかよ!」
勢いよくドアが開いたと思ったら、兄貴に殴られてた。その反動で床に倒れ込む、殴られた頬がズキズキと痛んだ。
「テメェはホントにアホだな。なんも分かっちゃいねェ…野球も、あいつのことも。そうやっていつまでも惨めったらしくしてろやァ。……テメェがそのつもりなら…俺はもうどっちも遠慮しねェ、容赦なく行くからなァ」
「…遠慮って」
「まんまの意味だァ」
そう言って立ち去っていった。
腹が立つ……今まで遠慮なんかしてたのか。そんな風に甘く見られてたなんて…でもありがたいことにお陰で目が覚めた気分だ。
(…遠慮?俺に遠慮なんてして随分と余裕なんだな、兄貴。俺だって容赦しねぇよ…見てろよ)
あれから謹慎がとけて、みんなに問題を起こしてしまったことを謝罪して再び練習へと打ち込んだ。
だけどとはギクシャクしたままだった…あんなことを言ってしまったから、そう簡単に戻れるわけない。
そんな日が続いて地区予選の前日になった。今日は背番号が配られる日、つまりベンチ入りメンバーの発表だ。
「それではこれからメンバーを発表する。1番…煉獄。」
監督が順番に背番号を手渡していく。もちろん、兄貴にも手渡された。
俺だって今までやれるだけの事はやってきた。例え呼ばれることがなくても後悔はない。
「17番……玄弥。………どうした?不死川玄弥!」
「え………」
その後のことはあまり覚えてなかった。
だけど、確かなのは背番号を貰えたことだった。