第5章 群青の飛球 *不死川玄弥*
家に帰るとベッドに寝転んで天井を見上げる。
「はぁ…」
何度目の溜め息だろうか…吐いた息を再び大きく吸って、またはぁと吐き出す。
エアコンを利かせた部屋で特にすることもなく、ゴロゴロしていると窓から梅雨明けした群青色をした空が見えた。
「夏、か……ちっ」
今の俺は、その空にまで苛立ちを感じた。
そのまま眼を閉じると、急に眠気が襲ってくる。
今まで睡眠を削ってまでがむしゃらに練習してきたから疲れが出たのか、と眠りにつく。
今は寝る間も惜しんで練習する意味もない……
もういっそ辞めてしまおう…か………
どのくらい眠ってたのか、じとっと汗をかいたことでTシャツが身体に張り付く。その不快感で目を覚ますとエアコンが停まっていることに気付いた。
エアコンのランプが点滅している…
「停電か…?」
ふと窓の外を覗くと道路が濡れていた。夕立でも通りすぎたんだろう。とのそのそと着替えて飲み物を取りに下へ降りた。
冷蔵庫を開けるとこんな時に限ってお茶しかない。
今はシュワシュワと喉を刺激するような物が飲みたい気分だ…
「めんどくせぇけど、買ってくるか…」
重い足取りでコンビニまで歩く。いつもなら自転車で行くはずだけど、今は乗るのも面倒だ。
「ありがとうございましたー。」
やる気のない店員の声を背に店から出ると、少し離れた店から兄貴とが出てきた。
(やべっ……て、何隠れてんだよ。確かに謹慎中で家から出るのまずいけど…あの2人こんなところで何してんだ…?)
影から覗くと、楽しそうに並んで歩く兄貴がいた。その表情は柔らかく優しい眼差しだった。久しぶりに見た兄貴の優しい顔と、その横で嬉しそうに笑ってる。そんな2人を見ていたら…敗北感のような気持ちが俺の心を支配する。
(あいつの隣にいれるのは俺じゃない……やっぱ、兄貴には敵わねぇな…野球も、あいつのことも。)
劣等感に苛まれ、今の自分にはもう何もないという現実が突き付けられた気がした。
飲みたくて買ったはずの炭酸飲料の存在を忘れて家に戻った。