第5章 群青の飛球 *不死川玄弥*
監督と職員室にいると言う宇髄さんの所へギリギリ間に合うと、スコアブックを渡された。
「これをに渡してくれ、あいつもう前のスコアブック使いきったらしくて」
「は、はぁ。分かりました…じゃ、お疲れっした」
(呼び出しダッシュをして、拍子抜けだ。わざわざ呼び出さなくても直接あいつに渡せばいいのに…あ、やべ。のこと忘れてた!)
先輩からの頼み事を不服に思っていると監督と宇髄さんの話が聞こえた。どうやら予選のベンチ入りメンバーの話みたいだ。
この数ヶ月、俺は兄貴を越えたい、周りに認めさせたい一心で練習してきた。皆が嫌がる兄貴の地獄1万本ノック、煉獄さんの激熱な投球練習…血反吐を吐くほど頑張ってきた。だからベンチ入りさせてもらえると思ってその話をつい盗み聞きしてしまう。
だけど……現実は甘くなかった。
「玄弥はどうだ?最近、練習試合でも打率、防御率共に調子がよさそうだが…」
「俺は反対です。まだあいつにベンチ入りは荷が重すぎると思います…」
宇髄さんの言葉に耳を疑った。
その後どうやって部室に戻ったか覚えていなかった。宇髄さんなら認めてくれると思ったのに…
(ちくしょうっっ!!なんで…どうして認めてもらえないんだよっ、何が足りない…くそ…)
「あ、やっと来た!遅いよ、何して…どしたの?」
「…なんでもねぇ。これ新しいスコアブック渡してくれって。」
「ありがと…んー?明らかに機嫌悪いじゃん。」
真新しいスコアブックをに手渡すと、俺の顔を覗き込んでくる。澄んだ瞳で心のなかを見透かされそうで「帰るぞ」と視線を反らした。
今は話したくない。こいつにベンチ入り外されたなんてカッコ悪くて言えるはずがない。本当ならベンチ入りして予選でかっこいいとこ見せてやろうと思ってたのにこの様だ…情けねぇ。
「ふ~ん?…玄弥が話したくなったら、いつでも聞いてあげてもいいけど?」
「っ!…別にお前に聞いてもらうほどのことじゃねぇよ。それになんで上から目線なんだよ、何様だ」
やっぱりにはお見通しなのかもしれない。すぐに俺の気持ちの変化に気付く所とか、話したくないと思っていればそれにさえ察してくれる。