第9章 Mermaid 及川
最後の夜、名残り惜しむように何度も何度も交わった
「歩…俺の形覚えて…忘れないで」
彼女を組み敷き指を絡ませながらピストンを速める
グチュグチュグチュグチュッ
「ああっ…アッアッ…イクッ」
ビクンビクンっ
ビュルビュルビュルッ
彼女が絶頂を迎え、俺も膜越しに精を放つ
ハァハァハァ
「ああトオル…泣かないで」
歩が両手で俺の頬を拭う
「歩こそ…」
彼女の目からも涙が溢れていた
「どうしても…俺と一緒にアルゼンチンに行くことは出来ないの?君なしじゃ…俺は…」
彼女は目にいっぱい涙を溜めながらフルフルと顔を横に振る
「トオル…私はあなたのこと、忘れない。だから…夢を叶えて必ず迎えに来て」
「トオル」
彼女の部屋を出る時に1枚の写真を手渡された
「これ…」
初めて出会った日に彼女が撮った俺の写真だった
薄暗い部屋、上半身裸で愛おしそうにカメラを…歩を見つめる俺
愛する人に眼差しを向ける自分を見る機会なんてそうそうないだろう
いい顔してるな
ー数年後
『甘いマスクで若い女性に大人気の、バレーボールアルゼンチン代表、及川徹選手の写真集の売り上げがスゴイと今話題になっていますね?』
『そうですね、鍛えられた肉体美も披露しているとあって、重版が追いつかない状況だとか』
『特に最後のページのモノクロの1枚、薄暗い部屋で上半身裸!そしてあの表情はたまりませんね』
『それに加えて話題なのが、写真集を手がけるカメラマン歩さんは私生活でも及川選手のパートナーだと言うことでも有名です。それであの表情を引き出せるんでしょうね』
『彼女自身が被写体としてモデル活動もされる程の美貌で、またカメラマンとしての才能も評価されており、今後益々活躍の期待できそうなビッグカップルですね』
「今は日本のニュースもコレで見られるから便利だね」
ベッドに寝転びながら2人でスマホの画面を覗く
「甘いマスクで若い女性に大人気だって」
「歩こそ、美貌が話題になってる」
俺たちは顔を見合わせて笑った
ーend