第8章 unexpectedness 縁下
女の子と2人きりになるなんて初めてかもしれない
何を話したらいいのか戸惑う
「すみません、龍兄がいきなり」
「いや、こっちが勝手に送るって言い出しただけだから」
「いつも龍兄と一緒なんですか?」
「そうだね、部活も一緒だから」
「じゃあバレー部なんですね!そう言えばお名前聞いてもいいですか?私は橘 歩です」
「俺は縁下だよ」
「縁下さんっ、今日は送っていただいてありがとうございます。本当言うと、この先に街灯がないとこがあって、ちょっと怖いなって」
「じゃあ…出来る限り夏休みの間は送ってあげるよ」
「そんなっ悪いですから!」
「大体いつも田中家でたむろしてるからさ」
「いいんですか?」
「歩ちゃんさえ良ければ」
「ありがとうございますっ、縁下さんって優しいんですね」
そんなに簡単に信用しちゃいけないよ
俺だって男なんだから
え、今の思考って俺?
我に返ってハッとする
だめだめ
俺は優しくて面倒見がいい縁下さんなんだから…
「次、バイトいつなの?」
「水曜日です」
「じゃあまた水曜に、おやすみ」
「おやすみなさい」
それから歩ちゃんがバイトの日はなるべく送っていくという生活が続いた
たわいもない色んな話をした
好きな映画や本の話
昔の田中の話
なんとなく歩ちゃんも俺のことを悪くは思ってないような気がした
「歩ちゃん、来週なんだけど試合があって送れそうにない日があるんだよね」
今日もバイトが終わる時間を待って、並んで歩く
「そんな、全然大丈夫です!1人で帰れます」
「いやでも…」
「あ、じゃあ電話してください。1人でも縁下さんと電話しながら歩いてたら怖くないです」
可愛い
可愛すぎる
触れたい
抱きしめたい
俺のものにしたい
しばらく経ったある日
今日は練習が昼で終わった
「じゃあ、今日も田中家集合で!」
「俺ら一回飯食って風呂入ってから行くわ!」
西谷、成田、木下は一度家に帰り、俺は田中と一緒に田中家に向かった
「そーいや、お前歩とどうなんだよ」
ニヤニヤしながら田中が訊く
「どうって何だよ」
「好きって言ったのかよ」
「…言ってないけど」