第8章 unexpectedness 縁下
夏休みが始まり、春高の予選までに宿題を終わらせるべく、
毎度お馴染みの勉強会が行われる
2年生みんなで田中の家に連日集まる
「力は本当良い奴だよな〜自分の勉強だってあるのに」
西谷が言う
「まぁ人に教えるのって自分の復習にもなるからさ、大丈夫だよ」
「力先生〜!!」
「縁下〜!!」
こいつらは頭はバカだけどバレーの腕はピカイチ
夏休みの宿題が終わらずに、試合に集中できないなんてなったら、勿体ない
「お〜お前ら!やってんのか!」
ノックもなしに扉が開かれ、田中の姉・冴子さんが入ってくる
「姉ちゃん!急に入ってくんなよ!」
「お邪魔してまーす」
「てか、姉ちゃん食堂は?まだ営業時間中だろ?」
「今月からバイトやとったんだよ、近所の女の子だけどね」
「俺の知ってる子?」
「あ、うん橘さんとこの歩ちゃん、知ってるでしょ?」
「おお!歩か!久しく顔は見てないけどな」
「なんか夏休みの間だけバイト探してたみたいでさ、まぁまた会ったら挨拶してやんなよ」
そう言って冴子さんは扉を閉めて出て行った
「で、その歩ちゃんってのは可愛いのか?」
西谷がニヤニヤしながら田中に訊く
「んー、歩は一個下だし、最後に会ったの俺が中学卒業した時だからな〜」
「見に行こうぜ」
成田が言う
「お前ら、勉強はどうした」
「縁下〜このままじゃ勉強なんて手につかないだろ?お願い!歩ちゃん見たら、ちゃんと頑張るからさ!」
「分かったよ」
5人で足音を殺しながら食堂の方に近づく
「歩ちゃん、もう上がっていいよ」
「ありがとうございます」
「何か食べて帰りなよ」
「わーい、嬉しいです」
可愛らしい女の子の声
「あれ…歩ってあんな顔だっけ?」
「ちょ、龍見えねーじゃねえか!」
西谷が田中の頭を押さえつける
「え…可愛い」
木下がボソっと呟く
とりあえずここまで来たからには俺もそのご尊顔を拝みたい
みんなの合間から覗き見る
サラサラの髪の毛を一つに束ねて
屈託ない笑顔で笑う彼女に
心を奪われた