第7章 strawberry 北
帰りの車の中
「北さん、ほんまさっきの気にせんといてください」
「あ、はい」
「でも難しいですよね、イチゴは手かけて手かけて大事にしたら、応えてくれるけど、人間はそんなことないから…」
治療のことを言うてるんやろか
そんで毎日死んだ魚の目で家族とおるんやろか
「そうですね…難しいですね…そやけどあんまり辛そうにせんと、誰か頼れる人あったら頼ってほしいですけどね」
「それ…北さんでもいいですか?」
「え?」
可愛い顔でこっち見んといて
「あ、そういう意味じゃなくてっ、やっぱ農作物大事に出来る人って信頼出来るってゆうか」
ちゃうんか
ちょっと期待した
あかんあかん人妻やぞ
でも23で好きでもない男に嫁いで…
「旦那さんのこと好きなん?」
俺マジで何言うてるんや
彼女はその問いに答えず、車から降りる時に小声でなんか言うた気がしたけど、よう聞こえんかった。
「…北さんみたいな人がよかったな」
手伝いは週末だけやったから、俺はいつのまにか週末が楽しみになってた。歩さんは俺の前やと色々喋ってくれた。
水曜の早朝、なんか携帯鳴ってる?手を伸ばしてディスプレイを見ると固定電話
「はい」
寝惚けながら出る
『北さん?』
「歩さん?!どうかしました?」
『昨日気温高かったでしょ?今ハウス行ったら、1人で収穫出来んほどやって…今から手伝いにきてもらえますか?』
「ええですよ、ちょっと待っててください」
『主人は晩から帰ってないし、義母も旅行いってるんです』
ちゃうちゃう
何期待してんねん
今日親おらんからウチ来る?
とちゃうねん
人手がないから手伝うてほしいてことやろ
勘違いすんな俺
いつもより少し早い時間
まだ外は薄暗くて、奥のハウスに灯りがついてる
「歩さん?」
「あ、北さんすみません。朝早く?いや朝にもなってないうちから…」
「構いません、このハウスだけですか?」
「そうです」
俺は上着を脱いで袖をまくり、職人のようにイチゴの収穫を始める。
1時間弱経ったか、少し空が白んできた
「北さん」
一つ向こうの列から彼女が話しかける
「はい?」
「イチゴって大きい方が甘いて知ってました?」
「そうなんですか」
目が合う