第29章 devoted 木兎
で、真面目な私は木兎くんに言われた通り、練習試合に足繁く通うようになって、いつの間にやらOHがアウトサイドヒッターだってことも分かるようになった
そして木兎くんは客席にいる私を目ざとく見つけて、いつも弓で射るように指差してくる
それが何度か続いて、いよいよ次の試合は仙台でのアウェー戦
当日のスケジュール確認のために体育館を訪れていた私は、帰り際木兎くんに呼び止められた
「歩さーん!お疲れ様!」
「あ、木兎くんお疲れ様。いよいよだね、頑張ってね!」
「おう!もう活躍しまくりだからちゃんと見ててね」
「うん」
もう私は認めざるを得なかった
そんなことわざわざ言ってくれなくても、いつも試合中は木兎くんを目で追ってしまってるから
「ハマった?」
「え?」
「バレー」
「うん、そうだね」
「俺には?」
「…さぁ、どうかな」
「ええええ!クッソ!まだかぁ!!!!じゃあさ、今度の試合で勝ったら?絶対勝つから、そしたら俺のものになってくれる?!」
本当は勝たなくてもそうしたいって思ってるけど…
「考えとく」
余裕があるふりして、そそくさと体育館を後にする
俺のものになってくれる?なんて…人生で初めて言われた私は、にやけそうになるのを必死で堪えながら帰路に着いた
当日…バスの乗車誘導や、タイムスケジュールの管理
会場に着いたら応援席の案内…と目の回るような忙しさだった
私はこの会場のアテンドが主な担当で、宿に組合員を案内するのはまた別の職員の担当だった
この試合が終わったら、選手たちをバスに案内したあと、木兎くんだけが少年誌の取材を受けるらしく、それを待って2人でタクシーで宿に戻るというスケジュール
段取りのチェックを終え、私も一ファンとしてゆっくり試合を観ようと思った時
「キャーーー!木兎ーーー!こっち向いてーー!!」
黄色い歓声が聞こえた
声がした方を見ると、ジャッカルのレプリカユニフォームを着た若い女の子が2人、旗を振って応援している
私よりずっと若い女の子…
そっか、そうだよね
一目惚れしたとか結婚してとか木兎くんがグイグイ来てくれるから、いい気になってたけど、私なんて所詮仕事が恋人みたいなアラサーだし…
でも今ので完全に気付いちゃった
私も彼のことが好きなんだって