第29章 devoted 木兎
試合は見事、ジャッカルの勝利で遠くから応援に駆けつけた社員たちも大盛り上がりだった
私も立ち上がって盛大な拍手を送っていると、木兎くんがこちらを両手で指差して、ニコリと微笑む
今、私の方を指差したよね?それに…勝ったら俺のものにするって…あれ本気なのかな?
私は上の空で座席の忘れ物チェックをして、木兎くん以外のメンバーをバスに誘導した
最後に乗り込んだ宮選手が
「遅なってもええで、向こうの人らにはうまいこと言うといたるから」
と言ってニヤニヤと笑っている
「なっ…」
カアと顔が紅くなるのが分かる
恥ずかしくなった私は宮選手をバスの中に押し込んだ
もうそろそろ、インタビューは終わっただろうか
インタビューが行われていた多目的室の前を通りかかると、眼鏡をかけた長身の男性とウェーブがかった髪の小柄な男性が部屋から出てきた
株式会社MSBYのIDを首からぶらさげ、スタッフTシャツ姿であることに気付いてくれたのであろう、長身の男性が
「お待たせいたしました。インタビューは終わりましたよ、木兎さんならロッカールームかと」
私の言いたいことが分かっているかのように、スラスラと答えてくれた
「あ、ありがとうございます」
言われたようにロッカールームに向かうと、私は扉の前で声をかけた
「木兎くーん、お疲れ様です。用意できましたか?」
「うん!入ってきて!」
中から声がする
入ってきて?
何でだろう?荷物多いとかかな?
恐る恐る引き戸を開けると、広々としたロッカールームの中に置かれたベンチに腰を掛ける木兎くんの姿があった
クーラーは効いてるけど、汗の匂いが充満している
ってか何で木兎くんは上半身裸なのだろう
「用意できてないじゃん」
彫刻のようなバキバキの身体を直視出来ずに、視線を外して言う
「えー、出来てんじゃん!早くこっち来て!」
手招きされて近づいていくと、グイッと腕を引かれた
「歩さん!見てた?俺勝ったよ!」
「うん、おめでとう」
「じゃなくて…約束したじゃん!俺のものになるって」
急に真面目な表情で言われて、私は一瞬たじろいだ
「俺のもの…っていうのは、その具体的には?」
「ぐたいてきって…俺のものは俺のものでしょ」
ジャイアンか