第4章 mine 月島
僕は社会人になっていた
高校3年間、彼女を忘れるように部活に没頭した。大学に進学し、今は博物館で仕事をしながら、地元のバレーボールチームに所属している。
歩さんはどうして姿を消したのか
単純に考えれば、旦那さんの元に帰ったのだろう
もしかしたら僕の子供を旦那さんと育てているのかもしれない
でもあの日
「蛍、大好き」
「私は蛍のモノよ」
「私の全てを蛍にあげる」
彼女は確かにそう言った
告白されて他の女の子と何度か付き合ったけど
その子たちの名前も顔も思い出せない
今でも思い出すのは歩さんの言葉
思考を止める
もうすぐ博物館の閉館時間
帰路に着く客たち
その中に
若い母親と小学生くらいの娘の姿
歩…さん?
気がつけば外までその親子を追いかけていた
「歩さんっっ!!」
振り向いた彼女は驚いて目を見開く
ああ やっと会えた
何も変わらないあの日のままの彼女
隣には…色素が薄く背の高い女の子
一目でわかった
僕の娘
「蛍…」
時が止まる
いや…止まっていた時が動き出す
彼女は僕から目を逸らし立ち去ろうとする
「待って!行かないで!」
手を掴む
「ママ、この人…フロッグスの月島せんしゅ?ママおともだちなの?」
「え?…君は僕のこと知ってるの?」
「うん!いっつもママと試合観に行ってるよ。ママは月島せんしゅの大ファンなんだよ」
ポンポンと頭を撫でる
歩さんは僕を好きでいてくれた
それだけで充分だった
公園で遊ぶ娘
2人で見守りながらベンチに座る
「…旦那さんは?」
「いない…とっくに別れた」
「僕が別れてって言ったから?」
「ううん、それより前」
え?
じゃあ最後に会った時はもう離婚してた?
それならどうして…
「何で何も…」
「蛍はきっと全てを捨てると思ったから。青春もバレーも未来も…だから本当に良かった。蛍がバレーを続けて、立派な社会人になって…私は間違ってない。何度あの日に戻ってもこうする」
「でもそれじゃ僕はあまりに無責任すぎる」
「いいの、私は蛍に何もいらないって言ったのに、素晴らしい宝物を貰ったから…」
「会いたかった」
「私も」
ーend