第4章 mine 月島
名前を呼ばれてドキリとした
心臓が鷲掴みにされる
彼女の名前は歩さんだと教えてくれた
病院の駐車場に停めてあるミニクーパー
キーレスで扉を開け慣れたように乗り込む
僕が助手席に乗ろうとすると
「アハハ!蛍おっきいから乗りにくそう!」
運転席で歩さんが笑う
「足が長いから狭いよね」
そう言ってシートを一番奥まで下げてくれた
「どうぞ」
「お邪魔します…」
エンジンがかけられ車が走り出す
西日が眩しいのかサングラスをかけている
途中スタバでキャラメルマキアートを二つ買い、ドリンクホルダーに差し込まれる
何もかもが大人に見えた
「蛍、今日用事ある?」
「いえ」
「じゃあドライブ付き合ってよ」
「はぁ」
わざと面倒くさそうに答える
「その制服烏野でしょ、バレー部?」
「何でわかったんですか?」
「勘?私バレー部のマネージャーだったから!」
「え?歩さん、今いくつですか?」
「レディーに年齢聞かないの!って冗談 24だよ」
「24…鵜飼コーチとか
「鵜飼先輩?!知ってる知ってる!鵜飼先輩が3年時、私1年だったから!」
心の底から羨ましいと思った
16歳の歩さんと同じ学校に通って同じ部活で時間を過ごす
どんなに願っても叶わないこと
「あと…あ、やっぱりいいや」
「なんですか?」
「嶋田先輩とか…」
嶋田先輩?
嶋田?
嶋田マート!
山口の師匠
「嶋田さんが何か?」
「え…あの付き合ってたんだよね、高校ん時」
歩さんは照れ臭そうに笑う
は?
付き合ってた?
猛烈な嫉妬が渦を巻く
高校生の歩さんと嶋田さんが
付き合うって何?
手を繋いだ?
キスをした?
それとも…それ以上
変な妄想が頭をグルグル回る
僕は首を左右に振って目を瞑った
「蛍?ごめんね、付き合わせて。そろそろ帰ろうか?」
不機嫌な僕を見てそう言ったのだろうか
「いえ、どこか停まってください」
「え、何?!車酔い?ほんとごめん!停まれそうなとこ探すね」
彼女は海の近くのドライブインに車を停めた
平日の夕方だからか車はまばらだ
「水か何か買ってこようか?」
彼女がシートベルトを外して外に出ようとする
「待って」
助手席から手を掴む