第4章 mine 月島
通学路の風邪が冷たくなり冬の足音が近づく
久しぶりのオフ
早く家に帰って今日買った雑誌でも読もう
僕は帰路を急ぐ
普段通らない大学病院の前の道
「へぇ ここの病院見ないうちにキレイになってる」
子供の頃熱を出した時連れてこられた思い出がある
ふと足を止めた
ベンチに座る人影
女の人?
泣いてる?
一歩足を踏み出す
いやいや面倒くさい
関わりあいたくない
でも見捨てていけない
ハンカチだけ渡そう
そしてすぐに帰るー
「あの…」
俯いて泣いている女性は気づかない
親切心なんて出すんじゃなかった
めんどくさい
「あのー」
もう一度イラつきながら言う
彼女はハッとして僕の方を見る
美しい
「よかったら」
そう言ってハンカチを渡すと、彼女は左手で受け取る
あ、指輪
ほんと最悪
親切心なんて出すんじゃなかった
「ごめん、ありがとう。すぐ泣き止むから待って」
そう言って彼女は僕のハンカチで涙を拭って、深呼吸をした
そして無理矢理笑顔を作ると
「ごめんね!若者に迷惑かけて!本当恥ずかしい」
と努めて明るく言った
「でもハンカチ濡らしちゃったね、弁償しなきゃ」
彼女は何かを隠すようにわざと話し続ける
「あの…」
「え?」
「何があったんですか?」
「あ…えっと、こんな話なにも面白くないよ」
「いいです」
真剣な眼差しで見つめると、彼女は困ったように笑ってポツリポツリと話し出した
結婚して2年が経ったこと
この病院で不妊治療を受けていること
そのことで義母から追い詰められていること
…そして検査の結果
「旦那側に原因があってね、絶対に妊娠することはないって先生に言われちゃったの。旦那は自分に原因があるわけない!って治療に非協力的で、すごく検査するのを嫌がってたから、その結果を伝えるのも怖いしって色んな感情がごちゃ混ぜになって、ワー!って」
高校生の僕には到底理解できない話
なんのアドバイスも出来ない
「でもありがとう、君に話したら少し楽になった。名前聞いてもいい?」
「蛍」
「蛍、ありがとう!そうだ!ハンカチのお礼、コーヒー飲みながら送迎っていうのはどう?」