第2章 鋼の錬金術師*エドワード・エルリック 「その表情の下に」
「小幡少尉、今更なんの御用ですか?」
「読みたい書籍があったので取りに来ただけです。」
「その敬語、やっぱり年上のくせに階級が下な我々への侮辱ですか?」
「そんなことはありません。年齢や階級に関わらず全員に敬意を払ってのことです。」
「では、その無表情はなんですか?」
「表情を動かすことに必要性を感じません。」
「昔は違いましたよね?」
「それは…」
エドとアルはそんな会話をドア越しに聞いていた。
「ほんと、目障りなんだよ。お前っていう存在が害なんだ。さっさと戦地にでも行って死んでくればいい。国民のためにな。」
先ほどまで志弦に敬語を使っていた男の声音が変わった。
エドとアルはそれに志弦が返答する前に書庫へ入った。
「志弦、遅いぞ。」
「すみません。中々見つけられなくて。」
「アル、志弦を手伝ってやれ。オレはこいつに用がある。」
「うん、わかった。志弦さん、どんな本?」
エドはアルと志弦が書庫の奥へ消えていくのを見送ってから男に向き直った。
「なんなんだよ、ガキがこんなとこ来んなよ。」
「お前、志弦よりも下の階級か?」
「准尉だけどなにか?」
「じゃあオレよりも下だな。」
エドはそう言って銀時計を取り出した。
「国家錬金術師。何か御用ですか?」
「さっきの会話、聞かせてもらったけど、昔の志弦はちゃんと笑えてたのか?」
「そうですけど、それがなんなんです?」
「今のあいつはああやって常に無表情だ。お前らのせいだろ。お前らがあいつにいろいろ要らないこと言うからあいつはああなったんだろ。さっきも死んでくればいいって言ってたな。害だって言ってたな。確かにこの世には死ねばいいと思うくらいひどい奴だっている。でも志弦はそんな奴じゃねぇだろ!お前らは国民守る軍人だろうが。そんな軍人が何の罪も犯してない奴に死ねなんて言うんじゃねぇ!」
エドの声がだんだん大きくなったことで書庫の奥にいた志弦にも聞こえた。もちろんアルにも。
志弦はそんなエドの言葉を聞いて、久しぶりに涙を溢した。