第7章 残されていた愛 繋がる愛
「なぜお前を残したか解るか、黒死牟。」
「はっ。」
側近中の側近である琵琶の鬼”鳴女”さえもその席を外され、部屋に残された黒死牟と鬼舞辻のみ。
先ほどでも異様すぎる重圧がさらにどす黒く重苦しくなり、鬼舞辻の次に力と立場、権威がある黒死牟さえも、息が詰まり冷や汗が滲んでいた。
「お前はあの時、私に日神楽一族を滅ぼしたと報告した。
なぜ生きてる。殺さなかった。
貴様の行いが110余年の上弦に穴を開ける結果になったのだ。
この責任をどうとる。」
「……返す言葉もございませぬ。…………何なりと処罰を受ける覚悟にございます。
だが、一つ言わせて戴きたい。
あの女"鬼成不血"にて、私のからだの一部である刀で触れることが、命に関わることだと判断してのこと」
「殺した鬼狩りから刀を奪い殺すこともできたであろう。
貴様はそこまで頭の回る男だ。
何故それをしなかった。」
黒死牟は無惨の言葉にハッとして黙り込んだ。
「どうやら無意識でそのように至ったようだな。
二人は生け捕りにして捕らえる。
貴様が私の前で殺せ。
その他は猗窩座の代わりに相応しい鬼を探せ。
それで今回のことは無かったことにする。」
必死で無になる事を試みても黒死牟の額からは脂汗が吹き出し、背中もグッチょりと汗で濡れそぼる。
「………御意」
主人、主の命は絶対だ。
曲げようとする心すらあってはならないこと。
それは400年もの歳月を一番近くでそれを守り続け忠実に任務をこなし、ビジネスパートナーともいえるような存在であった黒死牟が一番に守ってきたことだ。
それを単純なミスによって屈強な信頼関係に亀裂を生じさせた。
いや、
ミスではない。
自分には何かが見えていない。
無意識で殺す事を拒んだのは
そして、二度も彼女を前にして生かし
挙句の果てに女を庇おうとする
猗窩座の援助や助言までしたのはなぜか.....
自分はなぜそこまでしたのか
何がそうさせたのか
そして、自らの手で桜華を殺すことをこんなにも恐れているのか..........
黒死牟は全身の血の気が引いて震える程に痺れあがる手を見て驚いていた。
彼の心は人間時代の弟への嫉妬、妬み、僻み以外全てが欠けて抜け落ちていることに気づいたのだ。