第2章 無意識の中で
桜華が目覚めたのは昼過ぎの事。
昼間も雨戸を締め切った部屋は薄暗く一日の変化などわからぬもの。
人間にはよろしくない環境かもしれないが、今は致し方ないだろう。
昨晩、桜華が眠った後、人間の食料をかき集めに出かけた。
大至急かき集めた食料と川の水で粥を作り、水と一緒に盆にのせる。
支度が整い振り向くと、桜華が不思議そうにこちらを見ていた。
驚いているのか、目を見開き俺を見ている。
それはそうだ。鬼が、しかも、上弦の鬼である俺がこのようなことをするなどあり得ない。
飯をのせた盆ごと差し出すと、さらに驚いたように見てくる。
「食え。」
先ほどまでじっと見ていたというのに差し出せばよそを向く。
俺が炊事しているところが珍しかったのか
俺がコイツを太らせて食おうと思っていると勘違いしているのか
「お前を太らせて食おうなど思っていない。そもそも、俺は女を喰らえない。
行く当てが見つかればここを去ればいい。
ただ、昨晩も言ったが、死ぬことだけは許さん。
だから飯を食え。」
一向に食う気配がなくそう言ってはみたものの、無表情で天井を眺めたまま。
無理もないだろう。
死のうとしていた奴だ。食欲すら湧かぬはず。
だが、水は飲んでもらわねば、口元を見るにかなり乾いている。
やむを得ず、そのからだを支えて竹筒の先を口に押し込もうと試みるが、それすら首を必死で反らして受け取らない。
「俺の前で死ぬことは許さんと言ったはずだ。
飲まねば、どんな手段でも使ってでも飲ませるぞ。」
微かに威嚇するような目つきで俺を見る。
それでも飲まないという意思表示だろう。
あのような状態だったんだ。
俺が力づくでやれば飲むかもしれないがやり方を間違えれば傷がいっそう深くなりややこしい事になるだろう。
それに、この女を虐げてきた男どものやりそうな手口は使ってやりたくない。
可能な限り本人の選択肢を残してやった方が本人のためだろう。
「お前の状態は解ってるつもりだ。手を出すことはしない。
ここを去っても死ぬと思わなければ追いかけることもしない。
だが、そこまで頑なに水を飲まないなら口移しもやむを得ないがどうする。」