第2章 無意識の中で
傷を治すには鬼化させてしまうのが手っ取り早いし、上弦の鬼である俺には、無惨様にその許しを得て血を与える権限がある。
だけど、それをしたくない。
他に人間の民間療法とやらしか方法が思い付かず、
唾液を含ませ血が止まらない足の患部から少しだけ血を拝借したあと、布を引きちぎりそこに巻いてやる。
滴る血は稀血。
だが、今まで出会った稀血とは異質ではじめて知り味わうものだった。
新しい傷だけにしよう。頭がおかしくなりそうだ。
足の傷口に俺が口づける度にびくついて、女は涙目になって顔を背けた。
頭の中に湧いた邪念を振り払うように頭を振りきりながら立ち上がろうとすると
女は俺の手首を引きそのまま手を広げさせられた。
"桜華"
俺の手のひらに指で文字を書く。
表情はないが、少しだけ緊張は緩んでいるように思える。
逃げることを諦めたのか、
ただの礼儀としてなのかは定かではない。
まぁ、『女』、『鬼』って呼び合うのも変だ。
名前を知ってる方が何かといいだろう。
「おまえの名前か?桜華って。」
女は小さく頷いた。
「俺は猗窩座だ。ここで勝手に死ぬことは許さん。」
言ったあとで驚いた。
なぜ人間なんかにそんな言葉をかけたのかと。
女も、いや桜華も同じように驚いていた。
「助けた以上後味がわるいからだ。」
そう。
そういうことだ。
今日の俺はどこかおかしい。
その日の夜はその家にあった囲炉裏に火をくべて、女を見守るだけですごした。
俺は寒さを感じないのにそれも無意識でやってたことだと気づいたのは桜華が寝息をたてた頃だった。
俺がなめた血も桜華自身の体質もこれからの運命を大きく動かしていくことになるモノだと知ったのはもっと先のことだった。