第2章 無意識の中で
そこまで言うと僅かに驚いた表情を浮かべ、視線を落とした。
観念したのかようやく竹筒を受け取り、中の水を飲み始める。
嚥下する喉を見ていると、女の意思とは反対にカラダが生きようとしているのを感じた。
胸の奥に広がる温かさで己の頬が緩むのを感じて驚く。
俺は何をして何を思っているのだ....。
目の前の命は明らかに捕食対象だというのに生きている様子を見て安堵しているのか?
弱者で女である生き物に。
命を捨てようとする者に。
問うても答えをくれる者もいない。
ただ、見捨てられなかっただけだと己に言い聞かした。
結局、出した粥も同じようにいえば平らげた。
横たえた桜華の閉ざされた瞼から涙が一筋床に落ちて床板にしみていく。
その涙のワケを知りたいわけでもないというのに目を離すことができない。
その後もほろほろと溢れては流れては落ちていくだけのそれを妨げることをせず眺めていた。
それからの日々は、陽光に当たれない俺は洞窟で鍛練を重ね、夜は人間の食い物を探しに出る生活となる。
着物など桜華が必要そうなものを刀鍛冶の装いで出掛けては仕入れて、なるべく不便がないようにしてやった。
1週間なかなか水も食事もとらないコイツを脅しながらでも少しずつ食うようになって、2週間たった頃は少しだけ血色もよくなり骨ばっていたからだに少し肉がついた。
来たばかりの姿より肉付きが良くなると、顔もまともに見れないくらいの美しい女だ。
どこかの令嬢育ちか、背筋はいつも伸びていて所作も整っている。
言葉はまだ出てこないが、思い出すのか急に怯えたり、壊れたように泣く。
そして時々酷く魘されては飛び起きるのだ。
病気で弱っている人間と違う、壊れた感情を発散させるような泣きかた。
傷はだいぶ深いんだろう。