第6章 その身体に刻まれた過去
唇から伝わる甘い匂いと溶けるくらいの温度は
中毒になったかと思うほど理性をかき乱す。
まだ欲しいと、まだ、より深く欲しくて
薄く開いた唇に舌を入れた。
桜華の眉尻が下がり、舌を入れた口からは甘い息が漏れる。
その息も、歯もその中の舌も全てが甘い。
さっきまで肩にあった手は俺の顔を掬うように支えられていて、少しばかりぎこちない。
「んはっ………んん。」
欲持った甘い声が可愛らしい
桜華の中を牛耳る辛い記憶を俺でいっぱいにしたい。
考えられなくしてやりたい。
だけど、口づけながらも
俺に必死に応えようとして絡み付き
目を閉じることなく
全てを包み込むような眼差しに
逆に癒されて溶かされる。
君の深くて包むような愛に
深く深く沈むように溺れる。
それが気持ちがいいって思えるほど、
君以外の全てがどうでもいい
「目を閉じないな」
「閉じたら………猗窩座が一人になってしまう。」
「見ていたいの」
「桜華………。」
口付ける時、必死に目をこじ開けていようとしてくれることで酷く安心する。
無意識にいつもの畏まった物言いが少し幼げな口調になっていることに身体がゾクリと反応する。
少しずつ理性が利く幅が狭まってきた。
「傷つけたくない、怖い思いをさせたくない。
だけど.....その体に刻まれたものを俺で上書きしたい。」
言葉は足りんかもしれないが、
話すことも大事にしたいが触れて感じたい。
少しばかり余裕がなくなってきた。
「嫌なら、怖くなったら言ってくれ。君のためならいつだって止めれるから.....」
「大事に思っていただけて嬉しい。だけどあの時の感覚がまだ頭をよぎったりするの。」
「消して。
あなたに触れられて不安や恐怖を感じたことは一度もない。安心するの。」
自分の発した言葉に羞恥もなく目を潤ませて俺を見下ろす様と
その言葉をのせた声色が俺を煽る
「消してやる。優しくするからあまり煽ってくれるな。」
安心するように笑ってやると、熱もった目で笑顔になる。
それだけでも今の俺には十分すぎるほどの着火材だ。