第6章 その身体に刻まれた過去
頬を染めて優しい月の光のような笑みに
助けた時の微笑みを重ねた。
桜華の話はそれまで考えたこともなかった鬼の襲撃で生き残った者の残酷な人生を思う。
奪った命は戻らない。
失ったものは戻らない。
心も体も全てに記憶が残る。
でも、鬼だってそうだ。人間だったのだから。
話を聞いて、妙に自分の心も絶望から無気力になった過程があるように思えてしかたがない。
何も覚えていないはずなのに、
俺の脳以外の全ての器官で体感として残っている感覚だ。
そして、桜華を逃がすことに成功したらしい男が、圧倒的に弱いにも拘わらずこうして今人一人の命と運命を守れたという事実に感謝して感動して羨ましく思っている自分がいる。
強さとは、桜華が前に言っていた『愛のある強さ』とは
相手のためを思い
手をさしのべ
見返り等を求めず
相手の笑顔を守る力
もしそうならば、その男こそそれを成し遂げられた強者なのかもしれない。
殺戮、修羅の道をひたすら突き進んだ人間の一生よりも長い年月
俺はその時間を下らないことに捨ててしまった。
そんな俺でも好きだという君は
償いようもない重ねすぎた重い罪を背負う俺の事実より
自分が愛される価値を誤って低く見積もっている。
宝石に塗り付けられた汚れは洗い流してやれるんだ。
傷やチリが入ったとしてもそれを磨いていけば
それがまた周りの光を蓄積して輝き出す。
もっと人を幸せにできる。
俺は桜華をそんな人間だって思ってる。
一緒にいたい
やっと戻ってきた笑顔と心を守っていたい。
愛おしいと思う感情が溢れて桜華の頬を撫で、涙を拭い、頭を引き寄せ口付けた。
薄く開けられた目蓋の向こうに俺を映す潤んだ優しい藍が 悦びで揺れている。
無意識に体の芯が熱をもって疼いた。