第6章 その身体に刻まれた過去
連れていかれて格子の外に出てもまた鉄格子のような無機質な部屋で、
部屋には拘置所のようなものしかなく、ベッドだけがやけに広かった。
同じような面積の少ない服を着せられ、鎖で繋がれた。
一生ここからでれないと自分を買った男に告げられて、
数札の本と、衣食は強制的にとらされた。
着る服を拒んだり、食事や水を拒否すれば、鞭で叩かれ首を絞められた。
選ぶ権利はない。
出された食事はワリと普通だった。
しかし味など感じることもない。
叩かれないために食べた。
それだけだ。
人の前で声を発すれば叩かれる日もあった。
表情が気にくわないと叩かれる日もあった。
もはや、鬱憤ばらしの道具、観賞用の道具のようだった
一人になったとき家族や親族、友人の顔を思い出してはもう会えない、帰れないと胸が痛くなるばかり。
心がどんなにすり減っても体は人より数倍頑丈なようで、そんな環境におかれても風邪ひとつ引かなかった。
ただここで支配されたまま死にたくない。
それを思うようになっていった
最初の2年間はそのようなものだった。
2年半過ぎた頃、わたしに世話係が当てられるようになった。
背の高い男で20歳前後で全身に刺青がかかれていた。
男は優弥といい、喋らない、表情を変えないわたしの前でもよく話す、イカれたような笑みを浮かべている剽軽な男だった。
「仲良くなるなとは言いながらよぉ、おめぇのこと笑わせろだと。めんどくせぇわ。
でも、お前、笑ったらどこぞの金持ちが持ってる宝石より綺麗だろうな。
あ、おまえ、元金持ちか。
災難だな。」
そんなことをよく言っていた。
裏表なんて作れなさそうな、でも頭がキレそうな印象
男はいろいろ組織や外のことを教えてくれた。
窃盗、殺人、強盗…裏社会の何でも屋で暴力団とはまた違うらしい。
そっちの世界では名の知れた大きな集団とは教えてもらったものの名前までは言わなかった。
利用されてて、自分を誰かの良いなりに仕立てていこうって魂胆が解ってた。
それでも長いこと熱心に話しかけることをやめないと、心も揺らぎ始め初めて優弥の前で僅かに頬が緩んで、
それから少しだけ声が戻ったのは1年過ぎた頃。
また突き落とすようなことが待っていた。