第6章 その身体に刻まれた過去
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桜華がそこまで話し終えると、無自覚で流した涙を猗窩座の青黒い指が拭った
自身も鬼ではあるものの、勝負を仕掛けて負けた人間の血肉や稀血の人間を食らうのが猗窩座の常であり
一度に屋敷ごと破壊して一家惨殺ということはやったことがない。
もう、心の半分以上が人間の心を取り戻している状態でも、同じ鬼の所業で好いた女が涙を流すのは罪悪感が重くのしかかった。
出た言葉が
「桜華はそれでも鬼で同じように人間を襲い続けてきた俺を受け入れるのか?」
だった。
「受け入れるか否かは理由など要らないのです。
あなたがわたしにしてくださったことの全てが暖かかったし心強く感じています。
気付けばお慕いしておりました。」
桜華は目の前の不安そうに黄色い瞳を揺らす猗窩座の頬を包んで、全てを包むように笑みを浮かべて続ける。
「それに鬼の名は鬼舞辻がつけるのでしょう?大抵は字を見れば少しばかり経緯が予測できます。
あなたは、誰かのお役に立てなかった、誰かを守り抜けなかったという人生を生きていたのでしょ?
本来あなたは優しい。そして全て自分のせいにしてしまう。そして、全てを抱え込み、自分一人で背負っていこうとされます。
だから鬼になって強さに執着してきた
そのような人は衝動で抑えが効かなくなったとしても自ら鬼になることはしないでしょう。」
「俺は………何も…………覚えていない。」
黄色い瞳は切な気に伏せて、紅梅色の睫の奥で少しばかり潤んでいた。
でも、心の奥にはこの間見た夢をそのまま経験してるからこそ体や本能が覚えているのかからだが少し硬直したようだった。
「でも、言われていることは当たっている気がする。
桜華の方が俺自身を……よく見てくれてるな。」
「こんなに毎日近くにいるのです。当然の事にございます。」
そう笑いかけると、
再び視線を落とし
「続きを聞いていただいてよろしいでしょうか?
あなたに出会うまでの事を………」
これまでの経緯や状況でおおかた察しはついていたからこそ猗窩座は桜華が下ろした手を優しく握った。