第6章 その身体に刻まれた過去
そして襲撃があった日の夜、
「奥様!御子息様方を連れてお逃げください!
上弦の鬼にございます!」
使用人のその一声と共に大きな建物が崩れるような地響きと音が全身を揺さぶる。
屋敷を守る3人の隊士の呼吸を伴う攻撃音と爆発音が耳をつんざく。
一瞬だった。
逃げ惑う間に兄は弟妹と、母とわたしとで別れてしまった。
異様なドス黒い雰囲気と重圧感、そして異様なまでの殺気に身震いし動けなくなっているところを母に隠し扉の奥に押し込まれ、
「あなただけでも助かって。父と母が教えたものはあなたが信頼できるものに繋ぐのです。
耀哉様、産屋敷一族、鬼殺隊そして、あなたを幸せにしてくれる人と助け合って生きて……。」
「母も父も陽神楽家の人たちはあなたを心から愛しています。自分を信じてね………。」
一頻りわたしを強く抱き締めた母は戸を閉めて外から鍵をした。
戸の少し向こうで母の必死な声が聞こえた。
ぐしゃっと肉を裂く音を何度も耳にしたのに母は叫ぶことよりもわたしがいる部屋へ近づけさせまいとあがいていた。
泣き叫びながら懸命に戸を叩いた。
気づいたときには母の声は聞こえなくなって
母の死を悟ったわたしの心は崩壊を免れるように停止した。
どれだけ時間がたっただろう。
そこからは感情をなくした目がシャッターを押したように、映像だけの世界で覚えてる。
何の物音も聞こえず、気付けば屋敷の崩壊で雨が屋敷の中でも降り注ぎ、隠された部屋にも雨水が侵入して水溜まりが服を濡らした。
そして、その水溜まりの中に母の血も混じっていた。
わたしは動けなかった。
さらに次の日。
この屋敷から誰も連絡が出来ず死んでしまったことが解った。
誰も来なかったからだ。
何かに引き付けられるように外に出て死体と瓦礫の山を見た。
母は胴体、首、が裂かれ、兄は頭に大きな傷を負い、弟妹を庇いながら共に圧死。
使用人も酷いほどに切り刻まれて、祖父母は首がないまま抱き合って絶命、からだにも無数の傷があった。
引き寄せられるようにしてたどり着いた父の書斎で
一番仲の良かった隊士とともに原型をとどめないほどに切り刻まれて血の海になっていた。
その場でヘタりこんだ。
思考も感情もそこで止まった。