第6章 その身体に刻まれた過去
その他に日神楽代表家主祭で産屋敷一家と藤の花が咲き狂う藤襲山で、大晦日の日没から元旦の日の出まで休むことなく日神楽舞踊を舞うと言う儀式がある。
日神楽舞踊を舞うのは代表一家の嫡男と第二子(長女)もしくはその従兄弟に当たるもので祭司と呼ばれる役柄だ。
嫡男は矛、第二子(長女)は盾に見立てた扇を持つが日輪刀と同じ猩々緋砂鉄、鉱石からで出来ていて、祭司だけが持つことを許されていた。
その祭司を勤めるために5歳から精神統一、至高の精神力を鍛え上げ呼吸法も自在に操れるようにならなければならない。
特に、桜華の父は歴代最高といわれるほど見事な舞いだったが、その父から、兄桜華は歴代最高と言われるほど息の合った舞いで美しいと言わしめた。
父には髪の毛の下や背中に大きな炎のような痣があり、瞳は燃えるような色だった。
護衛の鬼殺隊から、『痣者は最強に強い』と、剣を握ることを父にも勧めていたが、理由は述べず断り続けた。
「わたしは経営者であることに誇りを持っているし、わたしの生涯の生業でございます」
と。
あくまで産屋敷一族や鬼殺隊に貢献するために全てを使い果たし、家族など周囲に優しく無我で接する父を
兄と下の兄妹と共に尊敬しその意思を受け継いでいこうという話をしていた。
そして、父は襲撃がくることを悟っていたかのように、襲撃の一週間前から特に家族に優しかった。
今まで多忙で出来なかったことを叶えるために。
襲撃の日の夕刻、兄とわたしは父に呼ばれ
「祭司、日神楽舞踊は己より武の優れた者に引き継ぎなさい。
どんな状況になろうとももうすぐ時代は変わるのです。」
と。
そして、
『雄一郎、桜華。覚えてなさい。
鬼も最初は人間だったことを。』
『多くの鬼は鬼になってしまうほどの憎しみで鬼になるけど、
怒りの矛先が自分自身に向かっている鬼もいるということを。』
『人間も鬼もわたしはもう一度やり直す機会があっていいと思ってる。
桜華は凪だ。どんなに気が立つ人も君の前では凪になる。
素晴らしい可能性を持っているんだよ。』
それが最後の言葉だった。
その言葉の真の意味も
受け継がれた伝承の意味も
もっと教えて欲しかった。
父は全て知ってるようだったから。