第6章 その身体に刻まれた過去
いつも以上に移動速度が速く風を切っていくせいで空気抵抗からからだが痛いし鼓膜も痛い。
でも、それ以上に強く感じる猗窩座の焦りとどろどろした憎しみや嫌悪感が痛いくらいに伝わる。
その様子から、まだ会っていない、上弦の鬼か鬼舞辻なのかと推測し、血の気が引く思いだ。
声をかけたいのに、この状況に耐えるのに必死で苦しい。
もうすぐ日の出だ。
日の出までに出来るだけ遠くへ行かなければ、わたしたちを探しにくる鬼がいるかもしれないのなら出来るだけ遠くへ。
日が射せば暗がりか、家屋、洞窟などに身を寄せねばならない。
色々考えてると、走る速度が遅くなって視線を感じる。
「わるい。加減がなかった。桜華の身体は他の人間より頑丈なようだが、きつかったら言え。」
「ごめんなさい。しがみつくので精一杯でした。」
「以後気をつける。」
猗窩座の手がのびて、買ってもらった簪の房を掬う。
「落ちずに良かった。愛らしいな」
と恥じらいもせず、優しい笑顔で言えてしまうのはわたしの反応を楽しんでるからでしょうか。
「唐突すぎます!」
と、真っ赤に染まったであろう顔を手で隠すと幸せそうに笑ってくださるの。
このやり取りと、その笑顔が心臓にわるいけど好きなのです。
横抱きからいつもの座らせるような抱きかたに変えていつもの速さで駆け抜けて、
太陽が完全に顔を出す頃には深い森の中の洞窟にたどり着いた。
また夜になる迄の一時をここで過ごし、日没を迎えればまた旅に出る。
過酷な生活の見えぬところで
運命は少しずつ足音を忍ばせて変化していった。