第6章 その身体に刻まれた過去
人の気配も夜が深まると同時に少なくなり、
大通りの外れでは、ぽつりぽつりとしか人を見かけなくなってきた。
波動に歪みを感じて猗窩座を見やる。
彼もなにかを感じ取っていそうな表情で、
「十二鬼月ですか?」
と聞いた。
「いいや、相手は一体。無理はないと思う。
もう一度聞く。
本当にやるんだな?」
「はい。お許しください。」
「桜華一人くらい守れる。そろそろくるぞ」
気配を感じたのは一瞬だったが、襲ってきた何かに掴まれようとするも、身体を軽く翻し桜華は走り出した。
猗窩座はそのまま屋根にかけ登り、桜華とその後ろを追う鬼がしっかり見える位置で気配を消して走り出した。
「……へぇ。やるじゃないか。」
強さを追い求め極め続けた男にとって、本能から悦びが込み上げるには十分なものだ。
走る姿は今まで男が遭遇してきた鬼狩りと重なり、無駄がなく美しいもの。
しかも、着物は紫、袴は黒色。
先ほど後ろでひとつに束ねた髪型は女なのになぜか猗窩座を手助けした男を彷彿させた。
「気の迷いも大概にしろ。」
そう言い聞かせて追い続けた。
桜華は少し足が縺れる素振りを見せつつ走った。
「ん?隊服は着てないが鬼がりか?
しかし稀血かぁ、好物だ。」
そんな男鬼の声が聞こえた。
大方、女に恋愛的な強い執着があるゆえ女性を狙っているのだろうと冷静に分析するに至った。
「黒薊棘!」
針を駆使する血鬼術か、地面から針が突きだして桜華を追うも、気配を察知して避けて逃げ続けた。
「足が速すぎて術が届くところに入らない。
なぜだ?」
「鞭針!」
男の腕がぎゅるると伸び桜華の背後を狙うも届かない。
そうしているうちにジリジリと人里から遠ざかるも桜華の走り抜ける速度は衰えなかった。
男鬼の背後少しはなれたところに闘気の波動を関知し、鬼も気づいて振り向こうとする瞬間桜華は懐から玉のようなものを投げ、鬼の顔に当たって弾け中から粉が飛散する。
「いっっったぁ!なんだこれは!」
爆竹のような破裂音に混じって猗窩座の術の呼声が聞こえた
_________破壊殺 空式