第6章 その身体に刻まれた過去
「猗窩座、先ほどの女性から、ここらで、謎の女性失踪事件があると聞きました。
恋人と逢い引き中連れ去られるようです。
鬼の気配を感じますか?」
先ほどの人混みも少し落ち着いた裏路地に入ると、先ほどの女性から聞いた話を切り出した。
「微かだが感じるな。存在を感じると言うよりは、ここら辺りに微かに形跡が残る程度だが…
じゃぁ、ここを早く発たねば………って、なんだ、その眼は…。」
桜華は、猗窩座の袖をつかんで懇願するような眼で見ていた。
その表情に良からぬ事を考えていると感じた猗窩座は、嫌そうな顔でその眼を見た。
「せめて鬼ならどうにかなりませんか?」
やっぱりと言ったように頭を抱えてひとつ大きな溜め息を漏らす。
「おい、忘れたのか?鬼の視覚、聴覚、思考の情報も、無惨様に通じるのだぞ。」
「わたしの間合いにいる鬼は関知されないのでしょ?
それに逃げ足は速いのです。わたしが囮になれば、猗窩座なら、気配を消して後ろから打ち込むと言うことはできませんか?」
「お前は鬼を嘗めてんのか?この前襲われたのを忘れたか。」
「日神楽家で受け継がれているものを使えば、無尽蔵に動けます。
普段は精神鍛練に使われているようなもので武術は用いませんが、鬼殺隊が使う呼吸と同じであると聞いてます」
そう言い放つ桜華の眼は本気で、闘志が滲み出ていた。
これ以上引き伸ばしても諦めてくれないと感じた猗窩座は悩ましげに頭を抱えて提案した。
「…………っハァ。跡がついたら命取りだぞ。
後でそれの事聞かせろ。そして逃げ切れ。もし、十二鬼月に関連する奴ならお前を連れて途中からでも逃げるぞ。
日輪刀がないから気絶させることしかできん。
それでもいいか?」
「はい。我が儘を聞いてくださって有難うございます。」
「全くだ。
思ったように動け。俺が後ろから追えば良いと言うのなら俺はそれに合わせる。」
それからは、動きにくいからと間に合わせで袴と鬼を捕らえるための鎖を調達してくれて、一般人を装いながら鬼の気配をたどり歩くことにした。