第5章 傷と罪は共に背負うモノ
結局桜華は、
夢を見てたのかも聞かれることもなく、
伝える頃合いを見失ってしまい、
恋雪や彼の過去を話すことはできなかった。
それに、この状況ではまだ彼女の遺言が意味を成さない気がして、暫くは様子を見つつ心の奥にしまうことにした。
日が落ちた今、「今日からまた別の場所を転々とする」といわれた。
身支度も簡易なもの。そして殆どか桜華のもので
互いの替えの、晒し、襦袢、着物1着ずつと食糧のみ。
「背に背負うと不意打ちで傷を追うのは桜華だ」といわれるのでいつも片腕に座らせるように抱えられる。
そもそもこんなに強い人に不意打ちしてくるような人も鬼もそうそういない。
そして、100年~200年くらい生きた年月、
鬼は疲労せず寝ないという体質ゆえに
かなりの時間を鍛練に費やしたという猗窩座。
そんな彼の肉体だからこそ、会ったことはないが恐らく今の時代を支える、鬼殺隊の柱達よりも脚力が強く走ることも速いはず。
わたしが風の抵抗を少しでも受けないようにと密着させて流れるように、揺れも少なく森も山も駆け抜けていく。
そして、時々
「辛くはないか」
とか
「体は痛くないか」
と聞いてくれて休みも適度にとってくれる。
時々、彼が鬼であることを忘れてしまう程に全てが優しかった。
そんな移動にも出会ってから移動が多い故に
数ヵ月たった今では慣れていた。
飛ぶように過ぎ去る景色に視界が追い付き
普通に息も出来るようになっていた。
余裕が出てきた分、今まで気にならなかったことが気になるようになってしまう。
息遣い
息の音
心臓の鼓動
上昇する体温
筋肉の動き
身体の強靭な固さ
正直心臓が持ちそうにない。
当然密着している分こちらのも気づくようで
「鼓動が速いぞ」
とか、
「体が熱いぞ」
とニヤニヤした声で言うから恥ずかしくて更に症状が悪化。
「言われなくてもわかっています。」
とむくれても、なぜか上機嫌になるだけ。
そんなやり取りに幸せを感じて、首に回した腕に力をいれてぎゅうっと抱きつく方が
彼を照れさせたりすることに関しては効果覿面だった。