第5章 傷と罪は共に背負うモノ
桜華は口付けても眼を閉じない。
必死で眼を離さないで俺を見てくるのが、
意地らしくて可愛いと思った。
どうしてこんなに安心するのだろう
休むことに全く興味関心なかったのは
余計なことを考えてしまう弱い自分が出てくるからだった。
今、桜華が心を許して
言葉で俺への愛を伝えてくれた。
俺が思ってた『余計なこと』とは
少し違う気がするが
鍛練しない今のような時間も愛おしい。
眼を閉じて欲しくない。
俺をその心と瞳の中にとどめて愛して欲しい。
血も、何の危険も感じない
ただ、何かが浄化されるような
安心と愛で満たされていくような感覚になる。
溺れてしまいたい。
口づけの状態で桜華の血を飲んで
傷口を縫うように舌を這わせると、また甘い声を漏らした。
なんども桜華の仕草と声、表情全てに理性を持っていかれそうになるが
漸く今日声を出せたばかり。
はじめて連れてきたときに感じた、見た状況が強烈だっただけに
まだ、全てをいただくのは気が引けて
自身に冷静さを取り戻すように深く息をして
桜華を抱き締め、その背を擦った。
「桜華がいろいろ話せるほどに過去の傷と向き合えたら、
その時に桜華の全てを貰う事にする」
というと、
「ありがとう」
と小さく呟いた。
外は静かな夕暮れ時。
昨日と同じく月が見えない夜。
桜華も体調が良さそうなので早速移動することにした。