第5章 傷と罪は共に背負うモノ
久しぶりに出した声。やはり言葉が声となるまでにつっかえてしまう感じがした。
猗窩座は、わたしが目覚めたことへの安心からかしばらくそのまま抱き締めていて、
それに応えるように
宥めるように
大きな背中をさすって
わたしもわたしで猗窩座の存在を感じていた。
少しの沈黙のあと話を切りだしたのは猗窩座の方だった。
「10日眠っていた何処も具合の悪いところはないか?」
低く優しい声。
頭を撫でてくれる手が暖かくて心地がいい。
「はい…。ございません。」
「猗窩座…………あなたの信念とは全く違うことをしてまで……、見捨てずに看病してくれて、ありがとう…。
あなたは、鬼なのに…優しくて暖かい。」
ずっと思ってたこと。
話せるようになってから声に出して伝えたかったこと。
言葉に出せたら気持ちが涙になって溢れた。
猗窩座の腕の力が抜けて左で抱きよせて、
右は優しく背中を撫でる。
「俺じゃない。桜華が俺にそうさせた。
今にも死んでしまいそうな桜華を放っておけなくて連れてきたあの日から
俺は何かを思い出すように体が動いてた。
でも、それが心地よいと思えた。
それだけだ。
だが、この生活で
俺はたぶん、人間の頃持っていた感情を取り戻しつつあるんだと思う」
抱き締めていた腕を離して抱き上げ、敷布団の上に座るように下ろされた。
そしてわたしの手をしっかり握りしめ、
大事なことを言うようにわたしを正面に見据え真剣な表情へと変わった。
「桜華」
「君が誰かもう知ってる。黒死牟に会ったのだろう。
あのお方が桜華の血の力と正体を知ったら殺すか生け捕りにしてその血の力の正体を探り操ろうとされるだろう。
そして、そうなると解っておきながら桜華を匿っている俺もかなりの制裁を負うとみてる。
俺は人間のような感情を取り戻してしまった以上、修羅と怨念だけのあの世界に戻れない。
俺は桜華と共に逃げたい。
付いてきてくれるな?」