第2章 無意識の中で
女の体はよく見ると青アザだらけで、目の辺りが腫れ上がり、切ったような傷もいくつもある。
足は素足で走ってきたのか、流血したり貫通してる箇所もある。
痛々しい姿、虚ろな瞳。放っておいたら自害しかねるくらいの生命力しかないその様子。
いや、むしろこんなところにいるのだ。
そのつもりだったのだろう。
この女を見ていると、いらぬ感情の葛藤が湧き上がる。
ズキリと胸の奥が苦しい。
放っておけばいいのに体が動かない。
コイツを連れて行けと言わんばかりに。
気づけば女を横抱きにして自分の縄張りへと駆け出していた。
腕の中の女は僅かに抵抗し、反抗するような目で俺を見ていた。
その力は、今まで喰われるのを拒絶する抵抗してきた人間とは違い、軟弱すぎるほど。
しかもその腕は折れるほどに細くやつれているのだ。
鼻を突くような青臭い臭いが、腸から怒りを込みあがらせる。
女をここまで弱らせるような奴は弱者の骨頂でしかない。
屑鬼に喰われる価値もない。
そう思っていると、女を抱える腕に力が入った。
なぜかは知らない。
ただ、女の弱った姿を見ていて湧き上がる苛立ちや、腹立たしさは、随分と昔に感じたことがある気がしてならない。
俺には人間だったころの記憶は一切ないはずだ。
なのになぜ…。
ただ、この女がまた生きたいと思うまで
いや、
こんな暗いところに一人で死ぬには惜しいと
心の奥底で何かが俺を突き動かした。