第2章 無意識の中で
俺は鍛練するために、人も獣もいない此処にくる。
今夜はここらの屑鬼が、樹海近くの人気のない道を通りがかった男の5人組を襲ったらしく、その残骸が転がっていた。
弱いものは興味がない。
生きる価値もない。
生死も選べない。
死に方も選べない。
弱者は哀れ。嫌いだ。
いつもの場所を目指して駆けていく。
暫くそこをまた駆けていると、ガサガサと草を掻き分ける大きな物音。
不振に思って近づくとボロ雑巾のような着物を着た人間が走っている。
ここはよく死体や幽霊、亡霊などが出没する怨念の塊のようなところ。
初めこそ、幽霊の類いだと思っていたが、匂いもすればハッキリとした音を立て、草も動いている。
人間だ。
人間の女だ。
人間がふと立ち止まり辺りを見渡し、また奥へ進んでいく。
まて。そっちは……
思わず女に声をかけた。
「人間の女がここで何している。」
女は大きく肩を震わせた。
驚いたのだろう。
覇気がない。
匂いや音もせず、ただ立ってるだけなら幽霊と見間違うほどに生命力を感じない。
普段から女は喰わないが、
助けるまではしない。
だが、なぜかこの女は放っては置けないと
俺の中のなにかが訴えて、立ち去ろうとする意志に逆らうように体が動かない。
そんな感じた覚えのない感情に戸惑うも、抗う気持ちが表情にそれを出すのを拒んでいる。
女が俺の目を見た気がして少し険しい表情になったもののすぐ目線が合わなくなった。
口許が微かに動くだけで声を発しない女に無性に苛立ちが込み上げる。
「怯えもしなければ、声も出さない。震えもしない。」
そういって、地面に着地し、女に近づくも微動だにしなければ表情も変えない。
「生ける屍のような女だ」
虚ろな瞳はそれでも揺らぐことはない。
ただ、何となくだが察したのだ。
ボロ雑巾に血濡れた傷だらけの姿
虚ろな瞳
女は精神を病んでいる。
そして、
「口が...聞けなくなったのか?」
"放っておけばいい"
そう思っても、心臓の奥深いところで
”放っておいてはいけない”
とせめぎ合う思いが
俺に焦りをもたらした。