第5章 傷と罪は共に背負うモノ
「あ……かざ。」
金属製の風鈴のような真のある優しい声が桜華の口から溢れた。
「桜華、おまえ………」
まだ夢の中で呼んでるにすぎず無意識だ。
それでも願っていた声が、聞きたかった声が、待ちわびていた声が聞けた。
俺の名前を口にした。
声を聞けただけで
名を呼ばれただけで
心が震える程に嬉しい
自分が鬼であることを忘れてしまうほどの感情の揺れと幸福感
疲労を感じない分、家に戻ってきてからずっと桜華を腕に抱えたまま。
離してしまえば、消えてしまいそうな儚さ故だった。
「俺の名を呼んだろ。
今、魘されてはいないが悲しそうな顔して
どんな夢を見ている?」
女が待っててと言った。
なぜかは知らんが信頼できるような気がして
桜華が目覚める事を信じて待っている
何にもしてない時間は辛い。
体を動かしていないと余計なことを考えてしまう。
ここ最近俺を襲う人間らしい思考が
尊く、懐かしく、愛おしくて、苦しくて、辛くて、寂しい
桜華を俺は誰かと重ねて見ているきがして
その誰かを思い出したい思いと
思い出せば自分が壊れそうな気持ちは
どう収拾付けていいのか解らない。
そんな複雑な心境にも関わらず、それが心地よいと思っている。
そのような想いを取り戻した今、あのような修羅と憎悪だけの世界には戻れない。
それに戻ったとしても俺は桜華を連れていかなければ間違いなく罰を受けるし、逃げたといえば追わされる。
俺だけが殺されるならまだしも、あのお方に桜華のことが知られれば、桜華も殺される。
桜華は正気をかなり取り戻した段階であっても鬼である俺を拒否することなく受け入れてくれた。
俺が巻き込んでしまった以上
受け入れて信頼してくれる以上俺が守りたい。
その思いを伝えたい
早く話がしたい。
もう一度声を聞きたい
俺の目を見て名を呼んでほしい
だから
その華奢で愛おしい体を力いっぱい抱き締めた