第5章 傷と罪は共に背負うモノ
恋雪は体がかなり弱いようで
狛冶は一晩中付きっ切りで手ぬぐいや寝間着を変えたり
水分を取らせたり、お手洗いに連れて行くところまでをした。
休む暇もないのにそれを苦ともしない。
彼にとっては、幼いころから父親の看病をしていたからか、嫌になる事もなく献身的に看病した。
それが恋雪にとって、狛冶の時間を奪っているようで申しわけなく思っていたようで、
「いつもごめんね。
わたしのせいで鍛錬も出来ないし、
遊びにも行けない.....。」
「遊びたいとは思わない。昔から。
空いた時間で鍛錬をしているので気になさらず。」
「でも、たまには気分転換に.....。
今夜は花火も上がるそうだから行ってきて.....。」
この時代の女の子もやはりお祭りや花火は好きなのだろう。
本当は自分が行きたいはず。
それも狛冶はお見通しのようで、
「そうですね。眩暈が治まっていたら、背負って橋の手前まで行きましょうか。」
と提案した。でも、恋雪は行ける様子ではなく少し残念そうな顔をした。
「今日行けなくても来年も再来年も花火は上がるから、その時行けばいいですよ。」
恋雪は涙を流した。
狛冶は明らかに居心地が悪そうにしているが、彼女の涙は、嬉しいという感情なのだろうと思う。
毎日のように酷く咳き込み、熱も頻繁に上がったりして、からだが弱すぎてお手洗いも自分でいくことが出来ないくらいの病身の身。
今日生きる事で必死な状態で、1年先2年先の未来なんて想像すらできなかったのだろう。
それ以後も、狛冶との普段の何気ない会話の中で
当人の知らぬ間に意図しない言葉で
自分の未来を当然のことのように思って伝える言葉で
恋雪は次第に元気を取り戻していった。
そして、隣の道場の後継ぎに無理やり連れだされて、その先で体調が悪くなり、置き去りにされたときも、かなり慌てた様子で狛冶が探して回っては連れ帰ったことも
その後、恋雪のためにその男がいる道場の人間と闘い、全勝した上に怒り狂って真剣を向けた男の刀を割り地に伏せたこと
そうした狛冶の行動が恋雪を勇気付け、次第に恋心を抱くようになっていった。
体調の方も少しずつ回復していった。