第5章 傷と罪は共に背負うモノ
「娘一人の家に罪人の俺を置いてっていいのかよ。」
普通の人間でも、出会ったばかりの少年に一人娘を、立った一人の家族の世話をさせようとは思わないだろう。
ましてや罪人で所払いされてくるような人間にそこまでお願いしようとしている事が不思議でならないのかもしれない。
でも、狛治はそこまで任せたいという慶蔵の心が身に染みているようだった。
「罪人のお前は先刻ボコボコにしてやっつけたから
大丈夫だ!」
と間を開けず答えた慶蔵は心からの笑顔。
それは心の底から見返りのない無償の信頼と愛を感じさせるものだった。
その言葉が狛治の心を撃ったのは言う迄もないこと。
そして慶蔵が開けた障子の部屋の奥
狛治より少し年下の少女が咳き込みながら二人を見ていた。
「俺の娘の恋雪だ。」
その様子は狛治にとって父親と重なって見えている様だった。
「朝より顔色が良くなってるな。少しはマシか?」
「うん……。」
「こいつなぁ、名前言わねぇから、俺が戻る前に聞き出しといてくれ。」
慶蔵は娘にそれだけ言い残して立ち上がり、狛治の肩をたたいて「じゃ、頼んだぞ!」と、その場を離れていった。
どうしたら、いいのか解らず立ち尽くしていると、
「父が強引に………。ごめんなさい。」
と話しかけられ、「いえ…。」と返すと座るように促された。
暫くの沈黙
狛治の顔の腫れと鼻血ぐあいに呆気にとられていた恋雪。
「あの、か……顔、怪我大丈夫?」
と聞くのが精一杯だった。
あぁ、この声は…
あなたがこの夢を見せてるのですか?
そう聞きたいのにわたしの声は出せなくて、
ただ辺りを見回した。