第12章 血戦
「玉壺さん、あなたには鬼にしてもらった恩があるが、ここで脱落してもらいますわァ…。
凄く面白くなったから、水を差されたくないんでね…」
「貴様の重力など、この玉壺が避けれぬと思っているのかぁ???!!!
腹立たしい…。目にもの見せてくれるわぁああああ!」
ぐちょぐちょぐちょと皮を脱いでは、目に見えぬ速さで高所へ移る。
その姿は玉壺の真の姿。
幼子のような無数の手はなくなり、筋骨たくましい腕に水かきの手、蛇のような半魚人な見た目をしている。
縦横無尽に空気を泳いでは狂快に向かって突進した。
「鬼神結界・千倍重刃」
「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」
玉壺が言葉を発する間もなく、大量の血が吹きあがり、辺り一面血の雨が降り注ぎ海のような広い血だまりが出来た。
「玉壺さんの移動範囲くらい、一瞬でつぶせるんすよ」
「忌々しい…。不愉快…」
玉壺がやられる様をみていた憎珀天が忌々しげにつぶやいた。
「その言葉が俺を愉快にしてることをまだわからんようだな」
再起不能に陥った玉壺の残骸は魚となってぴちぴちと血だまりの上をはねていた。
一方、他の上弦は位のない狂快の圧倒ぶりに目を見張った。
「へぇ…やるじゃない」
「童磨さんも、アイツの成長に抗えるかぁ分かんねぇなぁ…」
上弦の陸の兄妹はまだ、二人を鬼にした童磨には劣るものがあると判断するも、短時間でここまで強くなれた狂快の強さを目の当たりにして、少なくとも黒死牟に認められる分の力量がある鬼だと認めざるを得なくなる。
童磨も鉄扇で隠した口元は笑みを浮かべており、新参者の狂快の力を喜々とした眼差しで見下ろし、
沈黙を貫いたままの黒死牟は、表情一つ変えぬまま、下で繰り広げられる血戦を見守った。
城の琵琶女は、不快だという感情を抑えきれず、口元をゆがめたまま。
無惨は珍しく高揚した眼差しで狂快の戦いをみている。
依然として、緊張した場内の空間は悍ましい怨念で歪んで、憎珀天と狂快が威圧を放ち牽制し合う。
一騎打ちかとみられるが、憎珀天の本体である半天狗の姿を無惨と狂快以外の誰もが捉えていない。