第5章 傷と罪は共に背負うモノ
半刻もせず狛治が目を覚ましたが
見知らぬ場所。
「お!目ぇ覚ましたか!」
ちょうど先ほどの男性が様子を見に着た時だったが、相変わらずの笑顔に狛治は居心地が悪くなっていた。
そして目覚めてすぐに痛むようすなく起き上がったことに男性は驚きながらも喜んでいる。
「ここは俺の家であり道場だ!
その様子じゃ立てるんじゃないか?
ちょっと来てくれよ!」
わけが解らないという様子で首をかしげながらも、狛治は難なく立ち上がり、男性はまた驚きながら楽しそうに笑った。
「俺に負けたからには、お前は俺の弟子で確定だな!
で、お前の名前は?」
「…………弟子にしてくれって頼んでねぇ。」
悔しさ半分にぼそりと狛治が呟いた。
「お前も強情だな。俺が師範としてお前の心も根性も叩き上げて、もっと強くしてやるぞ!
今までいろんな事があっただろう。
今日からここがお前の家でもある。弟子も家族だ!
門下生として手伝いをしてほしいことがあるんだ。
付いて来てくれるか?」
「……そっちが狙いだろ」
「まぁまぁ、そう言い出さんな。稽古代の代わりだ。
いっちょ引き受けてくれんか?」
少しもの悲しそうな声色になったのが気になったのか、狛治は小さく首を縦に振った。
そして、二人は部屋を出て歩き出す。
「俺は慶蔵。素流という素手で戦う武術の道場をやっているんだがな、門下生が一人もいなくてな。
便利屋のような事をして日銭を稼いでいるんだ。」
「お前にまずやってもらいたいのは病身の娘の看病だ。
俺は仕事があるんで任せたい。」
先ほどのそこ抜けた明るさに少し影が射したような後ろ姿と声色に狛治はそれまで俯いていた顔をあげた。
「先日妻が、看病疲れで入水自殺してしまって、大変なんだなぁ これが。
本当に俺が不甲斐ないせいで、妻にも娘にも苦労をかける。」
狛治も父親を失ってから日が浅く、しかも病身の肉親がいることでつい最近までの自分と重ねたのだろう。
慶蔵の今までの苦労を思う目でその背を見ていた。