第5章 傷と罪は共に背負うモノ
傷だらけのささくれた心は
感じるもの全てが己の敵として映していく。
そんな狛治は野良の闘犬のように殺気を纏った目は鋭くなっていた。
同じくそのようなやからに目をつけられては喧嘩。
そして大人であろうが、どんなに体格が優れていようが全員が彼の猛攻により地に伏せる。
それの繰り返し。
その日も大人の所謂ゴロツキどもに目をつけられ取り囲まれた。
しかし、お構い無し。
7人ともぼこぼこに叩きのめし、地に伏せた。
興奮状態で乱れた呼吸で肩を上下させていると、
パチパチパチと手を叩く音。
そちらを見ると満面の笑みで狛治を見る道着を着た男性が立っていた。
「おーおー 大したもんだ!」
「子どもが殺されそうだってんで呼ばれてきてみれば
大人七人も相手に素手で伸ばしちまってる。」
「お前、筋がいいなぁ!
大人相手に 武器も取らず勝つなんてよ。
気持ちのいいやつだなぁ!」
始終ニコニコと嬉しそうに狛治に声をかける男性は
狛治の何を見ていたのか優しさも滲む表情だ。
「俺の道場に来ないか? 門下生が一人もいなくてな。」
表情を崩さず、狛治に語らう男性はどこか自分と重ねてみているように思う。
だからこそ見捨てることはできなくてそう言っているんだと思った。
でも、全てを寄せ付けない興奮状態にある狛治は男性に吠えた。
「うるせえ糞爺!!ぶち殺すぞ!!」
「その入れ墨、江戸の罪人だな?
江戸で所払いの刑を喰らって、この地まで流れてきたってわけか?」
「だったら何だってんだ!
テメェには関係ねぇだろうが!!」
「うむ。まずは生まれ変われ少年!さぁ来い!」
真に強き者は心も広く強い。
始終笑顔にできるのは狛治の全てを受け入れようとする強い意思であろう。
「くたばれ、糞爺!!」
先ほどの飛びかかる勢いもそのままに、男性に襲いかかるも指一本も触れることができず、全ての拳をまともに喰らい気絶した。
狛治は手も足も出せなかった初めての相手だったのかもしれない。