第16章 因縁の終焉
「おや?猗窩座殿、その姿は人間の真似事かな?」
特徴的だった青い罪人の線も、奇妙だった衣装もまるで今とは別の物。黒い道着、そして帯。そして、その腕に装着してあるのは日輪刀の類である。
「俺はもう、鬼ではない。貴様も情報を得ているはずだ」
童磨は鉄扇で嘲笑の笑みを浮かべる口元を隠した。
目の前の男はかつて、己よりくらいの低い鬼であり、『親友』という名の玩具に過ぎなかった鬼。
上弦の参――猗窩座
しかし今、己の前に立つ男は、血鬼術が生んだ冷気すら寄せ付けない紅蓮の闘気を纏っている。
その瞳には鬼特有の憎悪や闘争心とは別物の己へだけ向けられた一点の曇りもない怒りを宿している。
「まぁ、君の奥方を目の前にするまでは信じがたい話だったけど…。滑稽だね。なんで人間になんかなったんだい?」
「貴様に教える道理はない」
ダァン。
童磨との会話を続ける気はないと言わんばかりに、狛治は地面を蹴った。その踏み込みは、以前の猗窩座のそれとは比べ物にならないほど重く、速く、熱さを伴う。
呼吸は炎よりも熱い鮮やかな炎を吐いて冷気を相殺していく。
____速い!なんだこの気は…!
闘気はないというのに、過去の猗窩座のものとは全く異なる。それは、鬼として培った無限の膂力と、人間の呼吸術の至高の領域にある闘気を超越したものが融合した、未知の力だった。
「日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天」
狛治が繰り出したのは、日輪刀ではあるものの、拳を使うこの男に合わせて作られた刃から放たれた、炎の螺旋を巻き上げるような一撃。
童磨は反射的に鉄扇で受け止める。
ガアァァン!
冷気を込めた鉄扇と炎を纏う刀が激突し、爆発的な衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。童磨の腕が痺れた。
「フフ…面白いねぇ。まさか、俺が君の拳で痛みを感じるなんて…」
その瞬間、童磨の脳裏には、先ほど見た桜華の舞が焼き付いた。
____ああ…この何も感じない気…これが猗窩座殿が鬼の頃から追い求めていた”至高の領域”なんだね。
そして、そこにたどり着けたのは、あの娘に対しての愛という感情が、猗窩座殿を俺が知らない高みへ連れて行ったから…?
「へぇ、面白いね。ついにたどり着けたのか…!
もっと見せておくれよ。
猗窩座殿が手に入れたその力と闘気をさぁ!」