第16章 因縁の終焉
日と月の舞以外、己だけの全ての型は出し切った。
視線の端で、頸に斬撃が届いていたことを確認した。
だけど、
________やはり斬れてない。
「あぁぁぁ…惜しいねぇ…惜しかったねぇ…。あとちょっとだったよ…。」
斬ることが出来たのは3分の2ほど。
完全に斬れていないドクドクと脈打つ斬り口を支えながら、抉れたところを瞬でじゅるり回復させていく。
「やっぱり、生け捕りは相応しくないなぁ…。
猗窩座殿には悪いけど、先に、君に死んでもらおうかな
すっごく可哀そうだけど、ごめんね。あとで猗窩座殿も殺してあげるから寂しくないよ…」
演技の涙、扇の下の笑顔は冷酷。
だが、密かに桜華には速い速度で近づいてくる気配を察知してほほ笑んだ。
「その必要はないようです…」
「え…?おかしくなっちゃったのかな?可哀想に…今楽にしてあげるよ…」
童磨が扇を振り上げ、止めを刺そうとヒュッと息を吸い込んだ。
嗅ぎ覚えのある火薬の匂いを感じた刹那、キィィン!と耳をつんざくような爆発音と共に、天井をドォン!と突き破る二つの気配。
ガラガラガラと瓦礫が降り注ぎ、冷気に満ちた空間に、一瞬にして熱と光が溢れ出した。
風圧でその場に押し伏せた瞬間、暖かくて硬い感触が身を包んだ。
「すまない。遅くなった。」
聞きたかった声。
顔を上げると、安心するように笑いかけてくれる狛治がいる。
「待ち…くたびれましたよ…」
安心と逢いたかった気持ちが押し寄せて、涙が止まらなかった。
触れた衣を手繰り寄せて、その体温と匂いを感じたかった。
力いっぱい抱き寄せながら、耳元であやすように優しい声で囁く。
「よく耐えた…。もう少し待っていてくれ。一緒に帰るぞ」
「はい…」
狛治は立ち上がり、カナエの方の無事を確認した天元に指示を出す。
「二人を頼む」
「おうよ。早くケリつけろ。ド派手にな!」
カナエを肩に担いだまま桜華のところに天元が降り立ち、二人を抱えて安全な隅の方へ移動する。
「天元さん。あまり狛治から離れてはだめです。まだ日の呼吸が使える者は…」
「わーってるよ。そのために俺も来たんだろうが」
安心して緊張がゆるむと、それを察してか天元がニカッっと笑って、桜華の頭をガシガシと撫でた。