第16章 因縁の終焉
「凄い凄い!速いねぇ…ちょっと油断しちゃったよ」
ハハハと愉快に笑うのは余裕からくる嘲笑
こちらの限界は手に取るようにわかるのだろう。
それでも動きを止めなければ舞える。
動きの事を集中しろ
「威力は強いけど、もう疲弊しているだろう?
いつまで持つのかな?」
衣の袖が空で風を切り廻る。
冷風を切り裂く音が速くなる。
神が憑依したような笑みを浮かべたままの無の境地に蓮の氷硝子を弾いて避けて、確実に懐に入ろうとする。
「参ノ型 月神・匿影蔵形」
陽炎で間合いに入った冷気を相殺し、
赤銅色の月輪の斬撃が童磨の体を裂く。
「惜しい惜しい…!あとちょっとで頸に届いたね!
頑張って!」
他の型よりは再生が遅くとも、頸に届かなければ意味がない。
それでも果敢に華麗に舞いながらの攻撃は、花弁や蝶が舞うよりも厳かなそれは一種の禊のようなもの。
父の声が桜華の頭の中で木霊する。
『桜華。覚えてなさい。
鬼も最初は人間だったことを。』
『多くの鬼は鬼になってしまうほどの憎しみで鬼になるけど、
怒りの矛先が自分自身に向かっている鬼もいるということを。』
狛治は後者だったけれど、この鬼は空虚でどちらでもない。
それでも…
『そしてもうひとつ。人間も鬼もわたしはもう一度やり直す機会があっていいと思ってる。
桜華は凪だ。どんなに気が立つ人も君の前では凪になる。
素晴らしい可能性を持っているんだよ。』
一筋の涙が桜華の頬を伝う。
父が言っていたこと、今のわたしはわたしなりの答えに本当の意味で到達しようとしている。
この鬼との闘いを通して。
しかし、この鬼は罪を償う場所はこの世ではない。
だから、せめて地獄の底で償い、来世での安寧を祈って…
「肆ノ型 日月神・御心涙」
対象の鬼の攻撃を避けながら取り囲むように舞い、夕立の如く閃光と炎を伴って斬り刻む。
笑みを浮かべない、危機感を持った童磨の目とかち合う。
技を繰りだそうとする扇をこちらの出した技の最後で弾き落とした。
結の型。
前世に編み出した最後の型
「伍ノ型 神金環・結絆」
金環日食のように輪を描いた日(火)の粉は、光る粒子が斬撃となって高速にその頸に迫った。