第16章 因縁の終焉
「おやおや...驚いた。それは、猗窩座殿が使っていた技によく似ているね」
童磨が、飄々とした声で語りかける。
「ええ。武器がない時に、わたしと大切な人を守るために教えていただいたものです」
桜華は、童磨の質問に臆することなく答えた。
鈴割りも、冠裂割も、まだ彼女が自分の生まれた家の立場が明確にわかっていない頃に鬼だった狛治から教わった技。
そして、戦えると思った目の先に見えたのは、童磨の鉄扇。それが血鬼術で生成されていない道具であると見破ったからである。
以前、狛治と稽古をした際にも鉄パイプで戦えたことを思い出し、賭けに出たのだ。
「こちらの鉄扇、お貸しいただいても...?」
「へぇ…刀じゃないけどいいの?」
妊娠が解って以降、久しぶりの戦い。
故に、冷静であっても心臓は驚いているかのように脈を打っていた。
しかし、それは恐怖を含まない。
「こちらの形状が、わたしには扱いやすいので…」
「嬉しいなぁ…いいよ!楽しそうだね!」
童磨は、無邪気な子供のように微笑む。
息を整えて、ゆっくりと前に立つ敵を見据える。
冷たい感触は、流れる血潮の熱に反応して徐々に温まり始めた。
_________このままでは、痣が出ていない温度では、この凍てつく空気に吞まれてしまう。
___ならば…。
カッと目を見開いいて、一度痣が出現できた状態よりももっと強く神経を巡らせる。血を通わせる。
じりじりとその頸から額から痣が出現した。
「あぁ…そういうことか」
首筋からと額に出現した痣は幻想か、黒死牟と同じものと額にあるのは無惨の細胞にしか存在しない痣。
「黒死牟殿が殺せぬわけだ…」
童磨が呟いた。首筋と額に出現した痣は、黒死牟のそれと酷似していた。だが、額にあるそれは、無惨の細胞の記憶にしか存在しないはずの痣だ。
そして、桜華に感じる気迫や表情、顔などが、童磨の知りうる黒死牟と重なる。
彼女の手首と足首についた傷からは特殊な稀血の匂いが滴る。
普通の鬼ならばぐらりと眩暈を起こすほど。
「誘惑されるな…その匂い。なぜだろうね。黒死牟は危険だと思ったのはそれかな?
俺にはそこまで危険じゃなさそうに思うのだが…」